「おい」

 主人の部屋まであと少し、といった所で声を掛けられた。

 振り返ると料理人の彼だった。

「魔女の娘の忘れ物だ」

 何だと問い返す前に、勢い良く杖を目の前に差し出されていた。

 こいつも素直じゃないと思う。

「ああ、たいへん! でも私は両手が塞がっているから、一緒に持ってきてくれないかしら?」

「……仕方が無いな」

「でもよく気がつきましたねぇ! 私はまったく気がつきませんでしたよ」

「厨房にこんな棒っきれを置かれたら通行の邪魔だから、端に寄せていた」

「え?」

 それって、何? アンタだけが解るようにしていたって事じゃない?


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 そんな疑問を口にするよりも早く、バンっと乱暴に扉が開け放たれる音がした。


 急いで向かう途中で、主の怒鳴り声が聞こえてくる。


「スレン、外に出ろ!」


「オマエはしばらく部屋から出るな。そして余計な事をするな」


 ああ、案の定である。


 男二人の諍(いさか)いの渦中で、彼女は怯えているに違いない。