大地主と大魔女の娘



 痛みを覚えるのも、鼓動が早まって行くのも、きっと一緒だ。

 その事が私を後押ししてくれる。


 大きな身体が覆いかぶさってきた。

 押しつぶされてしまいそう、と思いながらも彼の重みを受け止める。

 からめて握り締められた手が熱い。

 それとは対照的な、背に受けた敷き布の冷たさが心地よい。


 とろりとした微かな眠気を覚えると、まぶたがを重く感じる。


「んっ!」


 その瞬間、思い切り口付けられていた。

 貪るような刺激に、眠気から引き上げられてしまう。

 噛み付かれたにも等しいと思ったのは、最初のうちだけだった。


 歯列を割り入ってきた彼は、怯えて縮こまった舌をゆっくりと誘い出してしまった。

 絡み合わされ、舌先でつつかれると逃げ出したくなる。

 もちろん逃げ場なんて無い。私の無駄な足掻きは彼に応えるはめになっていた。

「ん、ん……っぁ、んん……。やぁ……ぁっ」


 私の抵抗を、レオナル様は嗤った気がした。子供だと、拙いと思われたのかもしれない。

 必死で彼にすがってでも応えたいのに、息が苦しくてたまらない。

 侵入され、遠慮なく隅々まで探られては、おかしくなってしまいそうだと思った。

 時折、甘く柔らかく下唇を食まれては、何とか息継ぎを許される。


 繰り返し、繰り返し、狂おしいほど繰り返されてから、やっと解放された。


 自分のもののはずなのに、息使いが遠くに聞こえる。


 もう引き返せない。


 いうなれば逃げ場がない所にまで、自分を追い込んだ気がした。

 その勇気に自分を少しだけ見直す。

 そうだ、このままでいい。この先をも見据えて私たちが選んだ事だ。

 それでも……。

 この身がうち震えるのはどうしたことなのだろう?


「怖いか?」

「……。」


 いいえ。

 労わるように細められた眼差しに、そう答えたかった。

 でも出来なかった。

 何がどうとか。

 理由も明確に出来ないまま、ただ肩で息をする。涙が溢れ出す。

 それを振り払うように、頭を左右に振るしかなかった。


「俺も……怖い。おまえを壊してしまいそうで。嫌われてしまいそうで。でも気持ちを止めようもない」


 壊れ物に触れるとき、きっとこうするだろう。

 触れるか、触れまいかの境目をさ迷うように。

 そんな優しさを伴った手が、私という輪郭をなぞる。


「そんな目で見ないでくれ」


 まただ。

 ふりだしに戻った気がして固く目をつむる。

 でも違うと、すぐに自分に言い聞かせた。

 真っ直ぐに見つめ返した。


「止めな、ぃで、い……です」

「カルヴィナ?」

「気持ち、止めなぃ、でください。私も止まりませ、から」


 舌足らずな調子で格好がつかなかったが、一生懸命言った。


 触れて欲しい。触れたい。触れていたい。ずっと、触れてみたかった。

 私よりもずっと逞しくて厚い胸に、腕に、首筋に、思いの外やわらかな髪に、全てに。

 この繊細で優しい人の、もっとずっと深い深い心の奥底まで触れてみたいと望むんだ。


 自分から腕を伸ばして、彼を引き寄せた。


「んん……っ」

「カルヴィナ、カルヴィナ……。俺の夜露。俺の、俺だけの」


 うわ言のように繰り返される度、私は夜露を散らす。


 後はお互いの息使いと、言葉にならない言葉(きもち)だけが闇の中に溶けて行った。