月明かりを頼りに森の中を駆け抜け、たどり着いたのは懐かしい森の家だった。


『ここまでくれば大魔女の加護があるから、まあ大丈夫だろう。もう降りろ。

 エイメは別だが』


 そんな言葉を無視して、レオナル様はさっさと降りると、私を抱き上げた。

『助かった。恩に切る』

『ありがとうございます、一角の君』


『……フン。そう思うのならば蒸留酒の一番、上等なものを樽一つ分用意しろ。

 我の湖にまで三日以内に持ってこい』


『ひとりで飲むのか?』


『ぃやかましい。飲まずにやっていられるか! よいか。

 これから毎年、同じ時期、用意しろ。

 それこそ湖水が酒と入れ替わるまでな!!』


『分かった』

 レオナル様が請け負うと、一角の君はさっさと背を向ける。

 カツカツと歩きだしたが、ふいに立ち止まり、一瞥(いちべつ)くれた。


『エイメ。彼の者は、あちら側の者は処女(おとめ)でなければ手出し出来ない。……我も含めて』

『はい』

『さらばだ。幸せに』


 突然さよならを告げられる。


 闇の中、まっすぐに見つめられ、それから頭を下げられた。


『一角の君?』


『さらばだ』


 一角の君は森の中に走り去って行った。


 今度は振り向かずに。