大地主と大魔女の娘



 それからすぐに湯浴みをとすすめられ、身を清めた。

 体中に香油を塗りつけられてから、いつもよりも更に真っ白の美しい装束を身にまとう。

 髪も綺麗に整えられ、一部を高く結い上げてから白い花を差し込まれた。

 軽くおしろいをはたかれてから、唇には紅が乗せられた。

 そのせいで唇だけが嫌に目立つこととなった。

 少し滑稽に思えて吹き出してしまった拍子に、涙も一緒に溢れ出して止まらなくなった。

 ぽたぽたと零れ落ちる涙は、化粧を施してくれるキーラの手に落ちた。


 キーラは最初から何も言わない。

 フィオナも一言も発さない。

 既に儀式とやらは始まっているのだろう。


 キーラは出来栄えを確かめると、離れる間際にさり気なく私の手をぎゅっと握ってくれた。


 仕度を終えると二人は黙って頭を下げ、さがっていったのだ。

 一人、部屋で待つうちにどうやら眠ってしまったらしい。

 あれからどれくらい経ったのだろう?

 辺りはすっかり暗くなっている。燭台の灯りだけが頼りだ。


 そのまま動く事も出来ずぼんやりしていると、扉を叩かれた。


『やあ、フルル。準備はいいかい?』


 スレン様は私の返事など待たずに部屋に入ると、真っ直ぐに私に向かってきた。


『ああ! ロゼリットとの時が戻ったようだよ。あの49年前の僕らの婚礼の晩に』


 そう言って跪き目線を合わせると、私の手を取る。

『綺麗だよ』と嬉しそうに笑われたが、言葉もない。

 スレン様が見ているのは間違いなく私ではない。

 それでもスレン様の大きな手が、私という形を撫でた。

 首筋から肩、腕へと辿りながら下に降りて、右足の傷痕にたどり着く。

 スレン様の指先が慌てたように跳ね、眉根が寄った。


『ああ、そうだ! 僕の花嫁たる者にどんな穢(けが)れも似つかわしくないよ』

 穢れと呼ばれ胸が痛んだ。

 この傷は確かに醜いが、たくさんの事を教えてくれた。


『大魔女の最後の抵抗など他愛もない』


 何の事だろうかと問う間もなく、傷痕に口付けられていた。

 とたん足の引き攣れも、痛みも違和感も消え去る。

 驚いて目を見張っていると、スレン様が顔を上げてニヤリと笑った。