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 カ―――ン……。

 カァ――――ン

 カ―――――――ン

 響き渡る鐘の音が夕闇に吸い込まれてゆく。

 いつも聞いていたはずの音なのに、何やら物悲しく響いた。

 鐘の音はお弔いだ。

 先ほど巫女王様が亡くなられた。

( おばあちゃん……。)

 きつく目蓋を閉じる。


 泣き疲れてうたた寝をしてしまったらしい。

 夢を見ていたようだが思い出せなかった。

 ひどく身体が怠く、頭が痛い。

 薄暗い部屋の中ひとり頭を振った。

 ――巫女王様が亡くなられた。


 巫女王様の最後のときをスレン様の希望で、私は側で見守ることが許された。

 初めて入る巫女王様の寝室はあまりにも静かすぎた。

 傍らの椅子に腰掛けたスレン様を、私は壁に背を預けたまま、ただ見ていた。


 この二人の空間に入り込むことなど出来やしなかった。


『おやすみなさい、スレン』


 掠れた声が微かに空気を震わせた。

 スレン様の頬へと伸ばされた指先は力なく、滑り落ちる寸前に持ち上げられた。


『ああ……。おやすみ』


 最後の挨拶の返事は巫女王様に届いたのだろうか?


 スレン様は優しく、うっすらと微笑んでさえ見える巫女王様の頬を撫で続けた。

 そのうつむいた横顔に光る雫が伝い落ちる。

 私は口元に手を当てて息を呑み込む。


 同じだ。

 同じだ! あの時と! おばあちゃんが私を置いていった時と!


 すがった熱が私の手を滑りぬけていった。

 あの恐ろしい程の悲しみが、どうしようもなく私を貫いて思考を奪う。


『おやすみ。僕の花嫁』


 スレン様は最後にもう一度繰り返してから、巫女王様の腕をそっと下ろして整えた。

 そして立ち上がる。


『フルル』


 振り向きもせず、急に私を呼ぶ。


『さあ、君もおいで。ロゼリットにお別れを告げてやって。それから急いで準備に取り掛からないとね?』

『準備?』

『そうだよ。これから儀式だからね。僕の新しい花嫁』


 振り返ったスレン様に、涙のあとは見られない。


『おいで』



 にっこりと笑いかけられ、両手を広げて近づくスレン様に声が出なかった。