ド、

 ドドン、

 ドンドン、

 ドドン、ドン。

 どこか懐かしい太鼓の音。

 どこで聞いたのだったかしら? と思ったら、毎年の村祭りでだったと思い出した。


 ドドン、

 ドンドン、

 ドドン、ドン。


 規則正しく繰り返される調子に、心が浮き立ってざわめき始める。

 とても楽しくて、とてもとても落ち着かない。

(ああ、そうだった。今日はお祭りの日だったわ)


 いよいよ今日という日を迎えたという安堵感の中に入り交じる、複雑な想いに胸がいっぱいだった。


(あの方が神様役を引き受けて下さった何て……。しかも私が巫女の役)


 嬉しい。どうしよう、すごく嬉しい。

 この役目をやり遂げた男女は将来結ばれるという、まことしやかに囁かれる噂にも期待が高まる。

 それなのに、少しだけ怖くて今すぐにだって逃げ出したい気もしないでもない。

 私は鏡の自分をそっと見た。

 いつもより念入りにくしけずり、香油をすり込んだ髪が艷やかに輝いている。

 ただでさえ色味の薄い金髪が、陽の光を浴びてますます頼りなく見えた。

(ああ、あの方のようなハッキリとした黒髪と並んで大丈夫かしら?)

 あの夜闇を映した眼差しにくるまれるのだ。

 あの焦がれてやまない漆黒まとう人に。


 ドンドン――!


 物思いにふけっていると、ひときわ大きく太鼓が鳴り響いた。


 大きく胸の鼓動も一緒に跳ね上がった。

 いよいよ出番だ。


 付き添われ広場に向かった。


 村人たちも皆、期待に胸膨らませている。

 明るく興奮した空気がそれを教えてくれる。


(あっ……!)


 居た。あの方だ。とても背が高いからよく目立つ。

 森の神様の衣装をまとい仮面をつけておられる。


(すてき)


 見蕩れていると、不意に彼が振り返ったので目があった。

 思わずそらしてしまったが、あの黒い瞳にやわらかく包み込まれた気がした。


 ドドン、


 ドドン、


 ドンドン。


 太鼓に合わせて鼓動が高まる。


 私はこれから森の神の花嫁となるのだ。