大地主と大魔女の娘



 お茶を口にふくんだ途端、ピリリと沁みた。

 口元に手を当てて思わず眉をしかめる。

「エイメ?」

 気遣わしい声音に首を横に振って見せた。

 唇が乾いている。

 あの埃っぽい場所に何時間もいたせいだろうか?

 それともまた泣きすぎたせいかもしれない。


「なんでもありません。ちょっと唇が切れていたみたい。しみただけ、です」


 目蓋に浮かぶあの人の輪郭を振り払うように、勢い良く答えた。


 そんな私を温かく包むように見守ってくれていた。


 巫女王様はやっぱり私のおばあちゃんみたいだ。


 揺れていた眼差しが定まる。


 目配せひとつ送ると、キーラがすぐさま踵を返して戸棚を開けた。

 迷いなく選び出した小瓶を、キーラがうやうやしく差し出す。

「どうぞ」

「ありがとう」


 小瓶を受け取った巫女王様に手招きされ、身を寄せた。

 一緒の長椅子に腰下ろす。


「さ。これを」


 するりと撫でられた。

 その指先がすくった薄い蜜色は、唇の熱に触れたとたん柔らかく広がる。

「よく効きますよ」


 万能の花の蜜をねったものだとすぐに気がつく。

 おばあちゃんも擦り傷をこしらえたりすると、よくこうやってくれた。

 ふんわりと甘い香りが広がる。


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 丁寧に軟膏が塗ってくれる優しい指が、私の輪郭をなぞり出す。


「っ!」


 目の奥が潤み出す。せわしく瞬いたが、それがかえって涙を生み出す結果になった。


 ――あの節くれだった指先に捕らえられ、幾度もなぞられた。


 ぞくりと背筋に走ったものが何なのか、私には説明がつかない。

 この身の内にくすぶり出す熱にも。


 どこか私を覚えていてくれたらしい彼に嬉しさ半分、それと恨みがましい気持ちがあった。

 だったらどうして私をあの時……抱いてくださらなかったのだろう。

 今さら、蒸し返すような真似はやめて欲しい。それに、私。

 今頃になって後悔なんて馬鹿げている。そんな自分を戒めるためにも唇を噛み締めた。

 花の香りがほのかに漂う。そんなわずかな慰めにも涙が溢れる。

 胸をかきむしりたくなるような、もどかしさと狂おしさをどうしていいのか分からない。


 決まり悪く俯く私に、巫女王様は優しく頭を撫でてくれる。