レオナル様は強い。

 双方からの攻撃を巧みにかわしては攻撃する。

 だが時間が経つにつれ、不利な運びになって行く。それを目の当たりにするのは辛い。

 シオン様もデュリナーダも、同時に攻撃を仕掛けて行くせいだ。

 そんなのは卑怯だ、とはならないらしい。

 シオン様は優れた術者で、デュリナーダはその術者に従う獣となるらしい。


 鋭い爪と牙で襲いかかるデュリナーダを、レオナル様は拳や足でいなす。


 そのうち誰もが異変に気がついていた。

 何より、デュリナーダ自身も。

『何故切りかかってこない!』

 剣が持てない相手だから?

 ――違う。

 私が可愛がっていたからだ。獣のデュリナーダに慰められていたと知っているからだ。

 うぬぼれかもしれない。でも、レオナル様なら充分にありえる理由だった。


 どうにか傷つけずに、デュリナーダを遠ざけようとしている。

 確かにあの可愛らしい獣が血に濡れるのは見たくない。

 だからといって、レオナル様が怪我をするのだって見たくない!


「!?」


 そう思ったその時だった。

 獣の爪がレオナル様の肩をえぐった。

 一瞬血が飛び散ったのが見えて、私はとうとう口を両手で覆ってしまった。

 このまま行くとどうなるのだろう?


 そんな恐怖ごと飲み込む。

 見守るしか出来ない。

 このままここで、ただ目を見開いていることしか出来ない。

 彼がもし負けてしまったら? 絶対勝つと言い切った彼が。


 なんてことはない。シオン様に巫女王候補付きである騎士の称号を与えるだけだ。

 レオナル様も見守る前で。


 嫌だ。

 そんなのは嫌だ!


 痛烈に体を駆け抜けた感情に、自分自身でも驚くほど縛られて動けない。

 叫び出さないように口を押え付ける。

 溢れる涙に視界がぼやけた。


 嫌だ! 嫌だ! レオナル様が負ける何て絶対に嫌――!


 その時初めて、デュリナーダとシオン様が憎いと思った。


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 このままでは、レオナル様が……。

 認めたくない可能性に震え上がったその時、だった。

 強く風が吹きすさび、舞い上がった砂塵に思わず目を閉じた。一瞬。

 目をあけた次の瞬間に飛び込んできた光景に息をのむ。


「!?」


 素早く立ちはだかったのは、頭に一角をいただく獣だった。

 デュリナーダに体当たりを食らわせ、撃退してしまった。


 一角の君がかばった? レオナル様を? いったい、どうしたというのだろう?


 目の前で起こった信じられない一角の君の行動に、安堵しつつも訝しむ。