大地主と大魔女の娘



どうにか会話をつないだ。その流れから、本題を切り出すことに成功する。

 その本題はこうだ。


 ――失われつつある古の言葉を、どうか我らにご教授下さい。


 じいさ……。神官長の提案だ。確かに名案である。


「どうして古語を覚えたいと思うのですか?」


 申し出に興味を覚えてくれたらしい。娘は俺とシオンとを代わる代わる見た。


 どうして? と小首を傾げられた。後れ毛が首筋の動きに沿う。

 その仕草は訝しがってというよりも、単純に興味を覚えたのだろう。

 瞳に輝きが増して見えた。

 どうして? まさかそんな風に切り返されるとは思ってもみなかった。

 密かに動揺する。

 返答いかんによっては機会を失うかもしれない、と深読みしてしまう。


「それは……。」


 言い淀む俺を遮って、シオンが声高に割り込んできた。


「俺は聖句を極めたいと日々、努力を重ねています。けれども古の言葉を理解できずにいては限界がある」

「聖句?」

「ああ。獣たちを魅了し屈服させる呪術からなる句だ。術者の力量で従える獣の力に影響する」


 得意げに説明する部下の横っ面を張り倒してやりたくなった。

 得意げな顔を見上げている少女の眉根が、ひそめられたのに気がつかなかったのだろうか。

 ぐぅと唸った獣をなだめるように、少女はその首筋を撫でてやる。

 一瞬、とろりと目を細めた獣だったが、油断なくシオンを睨みつけていた。

「デュリナーダとお話ししたいからではないの?」

「何故、そのような必要があると言うのです? より強い獣を聖句の徒にすれば、加護の力も得られる」

「あなたは力で無理やり言うことをきかせようと言うのですね。そんな方のお手伝いはしたくありません」


「な!」


 何を言うという言葉は飲み込まれた。そのまま浅く呼吸を繰り返している。

 シオンはムキになる自分を諌めているようだった。


「何を仰るのか。あなたは何も解っておられない。獣を従えて我らの力添えとするために、聖句があるというのに。巫女の王となろうとも御方が何を言い出すのか。俺には理解できません」


「シオン様が何と思われようと、私はそう思います」


 獣を庇うように抱き込みながら、少女はきっぱりと言い放った。


『おお、エイメ。我が居る。こやつらのような無礼な護衛なんぞ、不要ぞ!』


 胸元に身をすり寄せ、甘えた様子で獣は少女に提案している。

 威嚇するように牙を剥き出しにしては、我々をあざ笑う獣の額に、少女の唇が押し当てられた。


『まあ。デュリナーダったら、そう……。』