皆、無言のままで茶をすすった。

 沈黙のお茶会なんぞ、これ以上気まずいものはない。

 しかも少女とは真向かいの席ときている。シオンも同じく。

 じいさんは上座で、少女の傍らには獣が陣取っている。


 焦れている自分を持て余していた。だが、いざとなると気の利いた言葉が出てこない。

 じいさんも目配せを送ってくる。わかっている。

 このままでは、もうじきお開きだという事くらい。

 嫌に喉が渇く。苛立ちが緊張からだと思い当たるよりも早く、少女の瞳が不安そうに揺れた。


 やはり、この娘はこちらの感情に敏く反応するのだ。

 こちらを気遣って口火を切った彼女が、申し訳なかったと謝りだした時には、驚きとやましさから立ち上がった。


「エイメ様が気にされる事など何もありません。このレオナルの物言いが悪かったのです。まさか貴方がそこまで深刻に受け止めるとは思いもよりませんでした。貴方が一人で出歩くと危険だから等とは言いすぎでした。ただ単に、その際には俺達を頼って下さるようにと強調したかっただけです。どうか……お許しいただけますか?」


 真剣に謝罪する。

 彼女は言葉に含まれたその響きを、余韻の余韻まで感じ取ってしまうに違いないから誤魔化しはきかない。だから無意識にそうであってくれと願った俺の意思を尊重して、閉じこもることを選んだのだろう。

 俺はあの時、心の奥底では願っていた。

 あまり出歩かないで欲しい。誰かの目に触れるたび、人々の注目や心をさらわないで欲しいと。


「私は言葉を、言葉のままに受取ります。そこに暗に何かを込められているのだと、そう諭されても理解に苦しみます。それとも言葉の裏の裏を読み取るのが、皆さまのしきたりなの? だとしたら、私には一生皆さまに理解されませんし、出来ません。付いていくことが出来にくいのです」


 伝えたいことは言わねばならない。緊張しながらも言葉を選んだ。

 それは、少女も一緒のようだった。

 お互い見えない張り詰めた糸を、どうにかたぐり寄せようと必死になっている。


「それに。私が読み取れるのは、読み取ろうと思えるのは――言葉を持たないコ達だけですわ?」


 そう言いながら獣を抱き寄せた。


「そいつは古語を操っているでしょう?」


 シオンがむっとした調子で言い返した。


 ……重ね重ね非礼を詫びる。