「来たよ」
「呼んでない」
「嫌だなぁ。だからこそ~気を使って来てあげたんじゃないか」
いつも通り予告もなく、ふらりと勝手にやってきた男を睨む。
のらくらとした口調に騙されてはいけない。
コイツの持つ隙の無い身のこなしと、優しげな顔立ちで惑わされやすいが、目つきの鋭さは油断がならない。
相変らず、笑みを浮べているくせに目は笑っていない。
奥底で何かを見逃さないよう、見極めようと光らせている。
胡散臭い奴だ。
こちらに歩み寄ってくる男に、椅子に腰掛けたまま視線を投げた。
「本当に何をしにきた、スレン?」
「ん? 見に来た」
ニンマリと笑いかけられて、ゲンナリした。
この男に笑いかけられると、経験上ろくな事が無い前触れだ。
「何を」
「決まっている。あのコだよ! フルル」
「フルル?」
「ああ。名乗れない、エイメとか呼べとかいうからボクが直々に名前を付けてあげたんだ。ぴったりでしょ?」
「話したのか?」
「うん。ね、ぴったりでしょ。フルルで」
おどけて言い放つスレンの神経を疑った。
勝手に目の前の椅子に腰掛け、足を組んで伸びをしながらこちらを窺ってくる。
いつまでも娘に対して口を割らない俺に対して、シビレを切らし始めているのだろう。
かすかな苛立ちを感じた。
