大地主と大魔女の娘



俺には特別な気配をかぎわける能力は、あいにくと備わっていない。

 だが異変を嗅ぎ分けることはできる。

 まず、修練場について感じたのは、皆の落ち着きの無さだ。

 始終、という訳ではない。

 当たり前だ。日頃から鍛錬を積んだものが、そうであっては困る。

 だが、切れ切れの集中力が、いかに用をなさないかという事も身をもって体感済みだ。


 まず感じた違和感。

 それは。

 能力値の高い者たちの姿が、こぞって見えないという点だ。


 副団長であるシオンをはじめとして、まとめ役であるはずのレメアーノまでもがいない。

 他にも数名の姿が見えなかった。

 残っていた者たちに所在を確認したが、誰も知らされていないという。

 周囲を見渡す。


 気が付けば、自分も修練場を後にしていた。


 この胸に差し迫る正体が何なのか、説明がつかない。

 だが、強いて言い表すのならば「焦り」だと思う。


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 目的もないまま、神殿内を小走りで突き進んだ。

 ふと、視界の端に人だかりが出来つつある一角が目に入る。


 聖なる清めの間。


 祭礼時などの特別な時でもなければ、おいそれとは入れない。入ってもいけない。


 その扉が開かれているのが見えた。

 突き動かされたように、そちらに向かって駆けつけた。

 扉の両脇に整列し、礼を取る団員達の間を抜けて、間に飛び込んだ。

 その時だった。


『おばあちゃん!!』


 大声でそう叫んで、巫女王様に抱きつく娘に、この場の誰もが息をのんだ。

 カラン、と乾いた音がして、何かが転がったようだった。

 娘の被っていたショールが滑り落ち、見事な闇色の髪が日のもとに晒される。

 ふうわりと空気をはらんだ髪がなびいた。

 その動きが落ち着くまでを、息を詰めて見守っていた。


 落ち着かせたのは、他でもない。


 巫女王様の繊細な指先だった。


『あらあら。いい子ね。そうね、寂しかったのね?』


 そう言いながら、優しく抱きとめた髪と、背を撫でてやっている。


『おばあちゃん、もう置いていかないで』

『ごめんなさいね……。』

『おばあちゃん、一緒に森に帰ろうよ。はやく。ここは怖い男の人達ばっかりで、怖いよ。嫌だよ』

『あらあら。そうなの? そんな事ないわよ。きっと誤解だわ。ね?』


 やわらかく宥められても、少女はイヤイヤと首を横に振った。