大地主と大魔女の娘


 間延びした声に驚いて飛び上がった。

 振り返ると、これまた背の高い紅い髪の男の人が立っていた。

 まるで気配がしなかった。

 いくらギルムード様に気を取られていたからといって、まったく感じなかったのだ。

 驚くなと言う方が無理だ。


 そんな逃げ腰の私を見て、次いで最初に現れた男の人を見やって、その人はいたずらっぽく肩をすくめた。


「あーれあれ? 何だい副団長殿。血相変えて朝稽古から飛び出して行ったと思ったら! こんな可愛い子と二人きりで逢い引きかい?」

「お前もうるさいぞ、レメアーノ」

「あっそ。じゃあ、何でこの子は泣いてるわけ?」


 そのレメアーノと呼ばれた人は、私と男の人の間に割って入るようにした。


 その時初めて、自分が絶え間なく涙を流したままだったと気づかされた。

 全く気が回らなかった。いつの間に。


 頬に指先を滑らせてみると実際、涙で濡れていた。

 大急ぎで拭おうとすると、衣服の袖口を引っ張られてしまう。

 視線を向けると、気遣うような優しい笑みを向けられていた。


「こすっちゃ、ダメだよ。これ、使って」

「ギル様」


 ギル様は綺麗な手拭いを差し出すと、私が受け取るよりも早く、そっと頬に当ててくれた。


「……泣かせたんだ?」

「別に。ソイツが勝手に怯えただけだ」

「へぇ?」


 紅い髪の男の人が放った言葉は明るい調子だったけど、冷たく聞こえた。

 決まり悪そうに答える男の人に、紅毛の人は詰め寄った。


「あの!」


 険悪な空気に耐えられなくなって、思い切って声を掛けた。

 三人の視線をいっせいに向けられて、正直怯んだが堪えた。


「あの、あの、私、ちょっと寂しくなって泣いてしまっただけです! だから、誰も悪くありません。むしろ、お騒がせして申し訳ありませんでした。ここには勝手に、おいそれと入ってはいけなかったのですね? 知らなかったとはいえ、とんだご無礼をいたしました事を、おゆ、おゆるしくださいませ……!」


少し語尾が震えて、どもってしまったが、勢い付けて言い切ってしまえばこっちのものだった。

 今度こそ、と立ち上がる。

 小さく震える膝を内心罵りながら、扉へと視線を向けた。


「!?」


 いつの間にか、人だかりが出来ていたのだ。

 人々の好奇心いっぱいの眼差しは、確かにこちらに向けられている。

 気のせいで済まされるものではない。


 しかも、この三人と同じような装束に身を包んだ、男の人ばかりだ。

 あの中をかき分けて行く勇気は流石に持ち合わせていない。

 それでも、ここで勢いを失う訳にはいかない。

 指先が震えて、また杖を転がしてしまいそうになった。

 そうはさせてなるものかと気を取り直し、しっかりと杖を握った。