大地主と大魔女の娘


 
 のろのろと杖を立てて、立ち上がろうと力を込めた。

 その間も鋭い視線を感じて怖かった。

 なるべく、その眼差しから身を隠すようにしていたのだが、ふらついた拍子にショールがずり落ちてしまった。

 掴みとろうとしたが遅く、ショールは床に落ちていた。

 しかも、上手く自分を支えきれなくなって、尻もちをついてしまった。



 カランカランと杖の転がる乾いた音が、嫌に響いた。

 一瞬、絶望に襲われかけたが、唇を噛み締めて堪えた。

 自分の言うことをきかない足を叱咤するように、思い切り叩いた。

 パシン、と子気味良い音に鼓舞されて、這いつくばって杖をたぐり寄せた。


 今一度、立ち上がろうと力を込める。


 その時だった。

「ふーくーだーんーちょう!? ああ、居た! 見つけましたよ!」

 軽快な歩調と口調が飛び込んできた。


「!?」

「ギルムード」

 聞き覚えのある名前に、身体がしなった。

 見覚えのある艶のある茶色く巻いた髪に、同じく明るい茶色の瞳は人懐こい。

 一度しかお会いしたことはないが、言葉は交わしている。

 ギルムード様。この少年は、リディアンナ様の弟だ。そして地主様の甥っ子。

 怖々、様子をうかがうしかない。


 おずおずと目線を上げると、ギルムード少年は、それはそれは晴れ晴れと笑った。

 それが初めて会った時と同じものだったので、こころなしか安堵できた。

 ホッとしてほほえみ返すと、ますます彼の笑みは深まった。


「うっわぁ、何、この子! 可愛い! どうしたの? 泣いてた? あ、もしかして、シオンにいじめられた?」

「うるさいぞ、ギル」

「えっと」


「初めまして、俺はギルームド・ロウニア。短くしてギルでいいからね? ね?」

「ギ、ギル様」


 勢いに押されて、こくこくと頷きながら、どうにか呼んだ。


「ねえ、君。どこかで会った事ない? 無かったかな? おかしいな。俺、可愛い子は絶対忘れないんだけど」


 ぶんぶんと頭を左右に振って否定して見せた。


「そう?」

「は、はい」


 どうやらスレン様の術は、滞りなくまんべんなく行き渡っているらしい。

 その事に安心を覚えると同時に、なんとも言えない虚しさが湧き上がってくる。

 それすらも私の都合のいい哀愁に過ぎないのだ。

 胸の痛みを押し殺して、微笑んでみせた。


「う~~ん? 絶対、どこかで会っていると俺の本能が訴えているんだけどな」

 笑えないことを真顔で言ってのける少年に、寿命が縮む心地だった。

「おいおい、ギルムード。いっちょ前に女の子を口説いているのかい? やるなあ」