怖い。
またいつかの恐怖が蘇ってくる。
たまらなくなって身を縮ませてショールをかぶった。
「どうした? 新しく巫女としてあがったばかりなのか?」
こくん、と頷く。
「だったら仕方がないのかもしれないが、だからといって、オマエのような者がこんな所に入り込んでいいわけがない場所なのだぞ、ここは。分かったら即刻、立ち……。」
細い顎がそびやかされたが、彼はそのままこちらを凝視して固まった。
立ち去れ。
その言葉は飲み込まれたという察しはついた。
私の投げ出した足と杖を見とがめたのだろう。
眉をひそめられてしまった。
慌てて裾で隠すようにする。
すると今度は青い瞳にじっと見据えられてしまった。
色素の薄い青い瞳は大きくて、吸い込まれてしまいそうな透明感だった。
身体の奥底まで見透かされてしまうのではないかと、震え上がってしまうのは、私に後ろめたさがあるからだ。
思わず見返すと、彼は前髪を邪魔そうにかきあげた。
それでもパラパラと短い前髪がほつれて、額にかかった。
髪の色も薄い薄い金色で、やや灰色がかって見える。
それもまた邪魔そうに、男の人はごしゃごしゃと頭を掻き毟るようにして上げた。
骨ばった指先からも苛立ちが伝わってくるようだった。
「オマエは……。」
言葉を失って固まっていただけだったけど、彼の言葉に我に返った。
足に障害があるのか?
髪も瞳も黒いのか?
彼のためらった言葉の先に紡がれる言葉を遮りたくて、勢いよく頭を下げる。
『申し訳ありません』
「何?」
ああ、この人には古語は通じないのだ。
慌てて言い直す。
「申し訳、ありません。すぐ、立ち去ります」
うなだれてその人の靴先を見るのがやっとだった。
衣服の膝元をきつく握り締めた。
浅く忙しく、呼吸を繰り返す。
言ってみたはいいけれど、どこに行けばいいのか解らない。
それでもとにかくこの部屋から出よう。
私みたいなのは立ち入ってはならないそうだから。
きっとこの彼は年若いが、それなりの役職に就いているのだろう。
そういった人がまとう独特の空気を、私はいつの間にか嗅ぎ取れるようになっていた。
彼の人の面影を思い浮かべて、胸が疼いた。
振り切るように頭を振るしかない。
