「驚かせてしまってごめんなさい」

 リディアンナ様のお部屋にと連れてきてもらった。

 その途端、謝られてしまった。

 真摯な瞳にしっかりと見つめられて、一瞬言葉が出てこなかった。


「いいえ。そんな……。何故、そのような事になっているのか、驚いてしまって」

「当然よ。わたくしだって驚いたわ」

「申し訳ありません」

「カルヴィナは悪くないわ。わたくしが怒っているのは、お父様とお母様。それに叔父様なの」

「……。」


 何と答えていいのか解らず、ただ言われた言葉を受け止めた。

 黙り込んだままの私に気を使うように、そっと囁かれる。


「それより、自分に対して一番怒っているけど」


 どうしてリディアンナ様が、自分を責める必要があるのだろう?

 言葉もないまま、首を横に振る。

 つないだ指先から伝わってくるのは、怒りと悲しみがないまぜになったもの。

 それは、こちらから感じようと思わなければ、伝わってくることのない想いだった。

 リディアンナ様は想いを外に出さずに、自分自身にぶつけているのだ。


 私はたまらなくなって、無言で抱きついた。

 悲しみを一人で抱え込んでいる、自分よりも年下の少女に甘えたりして。

 自分の事だけにかまけている自分が恥ずかしくて、申し訳無かった。

 リディアンナ様が、息をのんだのが分かった。

 でも、腕を振り払わずにいてくれた。

 やがて、ゆるゆると私を抱き返してくれた。


「わたくしが恐れずに触れられる数少ない人の一人よ、あなたは。恐れずに触れてくれる人も。そうそういない」


 ――誰も自分の未来や過去など、覗かれたくないから。


 そう、何の感情も込められずに囁かれた。

 リディアンナ様がほんの少し先を視る事が出来るというのは、少しだけ聞いている。

 触れた物や人から、わずかな可能性が視えてしまうのだと。

 抜け出した私が港に居るのが視えたから、慌てて迎えに行ってもらったのと、少女は教えてくれた。

 さらりと、なるべく何でもないことのように告げられて、それ以上は何も聞かなかった。

 ただ、黙って頷いて見せただけだ。

 それはどんな悲しみと喜びをもたらすのだろう。

 言葉に出来ない苦悩も、きっと。

 そんな想いを全て一人で受け止める少女を、ただ強く抱きしめてあげる事しか出来なかった。