「じゃあね、レオナル。フルルは僕に任せて、さっさと仕事を済ませるんだね」
「スレン」
「この借りは後で返してもらうよ」
「おまえこそ。今こそ俺に返しておけ。数々の借りを」
「何の事?」
スレン様はさらりと流して、扉の前から一歩踏み出す。
「カルヴィナ。姉上の所に行ってくれるのだな。必ず、後で迎えに行くから待っていてくれ」
すれ違いざまに、地主様が言った。
その子供に言い聞かせるみたいな調子がまた、気に障った。
地主様はいつだってそうだ。
少しでも都合の悪い事になると、私の事を子供扱いをする。
「いいえ」
「カルヴィナ?」
「私、自分で何とかします。地主様の手を煩わせたくありませんから」
わざとらしいくらいに顔を背けて、私の頭を撫でようとした手を避ける。
「スレン様、お願いします」
「はいはい、お姫様。参りましょうか」
スレン様はくすくす笑いながら、軽やかに歩きだす。
地主様はその場でずっと、見送ってくれていた。
「スレン様、お願い。少しでも早く歩いて下さい」
そんなまとわりつくかのような視線から早く逃れたくて、スレン様を急かしてしまった。
運んでもらっているくせに、図々しいのは承知している。
「お。いいよ。フルルに頼まれるのって気分がいいね。しっかり掴まっていな」
スレン様は快く引き受けてくれ、私の望み通り歩調を早めてくれた。
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「あ~いいものが見られた! 僕は満足」
お屋敷から出ると、スレン様は吹き出した。
「いいもの?」
スレン様は笑う。
そこにからかいの色は無かった。
本当に楽しんでいるように聞こえて、嫌な感じが全くしなかった。
むしろ、つられてこちらの気分も浮き立つようだった。
「見た? レオナルのあの顔。フルルにそっくりだったよ」
「私に?」
「そう。僕にフルルを取られちゃう、っていうあの顔」
