大地主と大魔女の娘



 可憐さに見蕩れて、言葉を発するのも忘れた俺を、スレンがからかう。

「僕が小鳥なら間違いなく、迷うことなく一番に口にするコト請け合いだよ」

 我がもの顔で言われても、手出しができない。

 スレンの思うつぼだった。

 だが、まったくもってその通りなのだから、仕方なく諦めた。


「ああ。とても良く似合っている。カルヴィナ、もっとよく見せてくれないか?」


 心からの賞賛と願いだった。

 後ろ姿も充分可愛らしいが、俺を見て微笑んでくれたら完璧だ。

 衣装は最近の流行りとやらで、胸元の切り返しが高めに取ってある。

 それが女性らしさを強調するのだそうだ。

 こちらからは見えない。


「カルヴィナ、気に入ってくれたか?」


「……。」

 だがカルヴィナは何も答えずに、ショールの端に顔を埋めてしまった。

 照れているのだろう。

 頬がうっすらと染まっているのが見えた。


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「こちらに来なさい、カルヴィナ」


「……っ!」


 またカルヴィナの肩が跳ね上がった。

 怯えた様子のまま、こちらを窺われた。

 そんなカルヴィナに、奥歯を噛み締める。


 怖がらせてどうする。

 幾度も繰り返してきた過ちを、学習しない自分を諌めた。


 上から目線で命じれば、カルヴィナはたちまち降参するに決まっている。

 それでは意味がない。

 意味がないのだ。

 あの日、スレンに連れ去られた時のように、自ら進んで求めて貰わねば。

 そうでなければ俺の気が済まない。

 それなのに、今のカルヴィナが頼りにしているのは、間違いなくスレンの方だった。

 何故だ。

「カルヴィナ」

 努めて口調は柔らかくしたが、にじみ出る不機嫌さは隠しようが無かった。

 それでも苛立ちに任せて声を荒らげることのないようにと、自分に言い聞かせた。

 大声を出してはいけない。

 それはカルヴィナを恐怖へと陥れる。

 結果また、溝が深まるのだ。

 いい加減学んだ事を、実行できずにいてどうする。


「カルヴィナ、こちらにおいで」


 我ながら情けない事この上ないくらい、小さな声だった。


 カルヴィナの様子は変わらない。

 ますます、スレンにしがみついてしまう。


「カルヴィナ」

「……嫌っ」

「カルヴィナ?」


「嫌です。じ、地主様はあちらに、お客様をお待たせしていらっしゃいますもの。私に構わずにお戻り下さい」


 つんと澄ました様子で言う、カルヴィナの頬はうっすらと朱に染まっている。

「地主様。私はジルナ様のお見舞いに行くのです。ですからそこを通して下さい」


 さらにそう続けられた。


 スレンにしがみつきながら、精一杯強がりを言うカルヴィナに、思わず口元を覆っていた。


 ――これは、もしかして。


 カルヴィナの見せてくれる感情の波に、俺は期待せずには居られない。