大地主と大魔女の娘



 正直、ルゼの気性からすると「彼女らしくはない」やり方だったように思う。

 公爵令嬢などという肩書きの貴婦人の割に、箱入りではないのがルゼだ。

 無邪気に己の身分を高位と位置づけて、人を見下すような真似はしない。


 いや。

 俺が勝手に、そう思い込んでいただけなのかもしれない。

 彼女を崇拝するあまり、何かを見落としていたのか。


 そのルゼが、カルヴィナをこき下ろしていた。


「子猫ちゃんは一人では上手に歩けないのね」


 さり気なかったが、アレはカルヴィナに対する攻撃だった。

 カルヴィナとてそう感じただろう。

 少なくとも、俺は不快だった。


 一体、何を企んでいるのやら。

 ただ無言で歩みを止め、やんわりと東屋の方へと促した。

 かつてここに並んで腰下ろし、一緒に庭を眺めたものだった。

 風雨にさらされた腰掛ではあるが、ルゼは構わず腰を下ろす。


 俺は横に並ぶこともなく、立ったままで距離を置いた。


 挑発的に微笑む女を見下ろす。

 ルゼもまた、視線をそらすことなく俺を見据える。

 美しい姿の、公爵令嬢だ。

 かつて恋焦がれた女。

 手に入れようと躍起になっていた。


 自分には無いものを、何もかも兼ね備えた女性。

 手を伸ばしても、そうやすやすとは届かないところで咲き誇る花だった。

 ただ、それだけだったと今は思う。


「レオナル。貴方の飼い猫ちゃんは結構、気が強いのねぇ。言われっぱなしじゃなかったもの。もう少し話していたかったのに、残念だわ。邪魔が入って」

 そこは全く同感だ。

 カルヴィナは控えめであるが、けっして大人しい性格ではない。

 言われっぱなしであってくれた試しが無いのだ。

 カルヴィナにその気は無くとも、何かしらの形で俺は報復を受けてきたとすら思っている。

 まあ、全て自業自得だと言えばそれまでだが。


「あれは物を知らぬから。何かご無礼でも働きましたか?」


「いいえ。逃げ出したいようだったけど、我慢して居てくれたように思うわ。わたくしの手を拒まなかったもの。優しいのね、あの子」


「優しい? 確かにそうだが、こんな短時間で解るものなのか?」


「わたくしにあの子の何が解るのかとでも言いたげね、レオナル。解るわよ。貴方は鈍いから、ようやく最近気がついたのかもしれないけれど」


「確かに周りからは慕われているな。本人にあまりその自覚は無いようだが」


「そうね。でも、わたくしはあの子、嫌いだわ」


 くすくす笑いながら、さらりとルゼは言い切った。


「あの子が現れてから、貴方が変わったからかしらね?」