木漏れ日の中を進む。
傍らには公爵令嬢を伴っている。
かつてならば、心踊った一時であったはずだ。
だが今は、そんな日々すらも遥か遠く過ぎ去った出来事のように思えた。
あえてカルヴィナの存在は無視したのだが、それくらいで見過ごす女ではないのがルゼだ。
エスコート役を引き受けたのも、さり気なくカルヴィナから遠ざけるため。
二人、しばらく無言で庭を進んだ。
双方、お互いの出方をうかがっている。
要は腹の探りあいだ。
示し合わさずとも、足が向かう先は自然と決まっていた。
かつてのささやかな逢瀬の順番そのままに、とりあえずの目的地は庭の奥にある東屋だ。
確かに二人きりで会話をするのには、最適の場所ではある。
そこに立ち入ってもいいのは、鍵を持っている者だけだからだ。
庭師にも手入れの際には、俺自身が鍵を渡し、作業が終わり次第返却してもらう。
貴族のしきたりなんぞに倣う気は無かったが、身分ある人を招くのならそれくらい当然かもしれないと考え、造らせた庭園だ。
そういえば、ここを訪れるのはずい分と久しぶりだった。
腰の高さほどの扉を開ければ、薔薇をからませたアーチが出迎えてくれる。
だがもうとうに花の時期は過ぎている。
思えばそれ以来、ここには訪れていないのだと思い出す。
花の盛りの頃には大輪の、そして色とりどりの薔薇が香しく咲き誇っていた。
毎年迎えるはずのその季節も、どこか遠いもののように思えてならない。
今年のその季節、この館にカルヴィナはまだ居なかったのだ。
もし居たのならば、この庭の鍵を渡していたかもしれない。
次の花の盛りには必ず、と思う。
彼女が微笑むのは、何も咲き誇る花にだけでは無いと知っているとしても、俺はそれを望んでいた。
今は無性にカルヴィナが丹精込めて世話している、あの小さな畑に戻りたかった。
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「あの子猫ちゃんの事、考えてるでしょ?」
絡めた腕を引き、わざとらしく密着してくる。
そんな令嬢に辟易しながらも、まさか振り払う訳にもいかない自分が嫌になる。
ルゼもまた、それを承知の上でやっているのだ。
ささやかな権力行使の嫌がらせ。
先ほどだってそうだ。
カルヴィナを前に、俺たちの関係を匂わせるような会話運びだった。
