「フルルは僕がお部屋に連れていってあげるから。さぁ、立って立って。ちゃんと泥を落として、お着替えしてね」
言いながら、幼い子にするように服の汚れを払ってくれた。
「リディアンナも待っているから、急ごうねえ」
スレン様は明るく促してくれているように思えた。
そう。努めて明るく、いつもの通りに。
私をこの場から遠ざけようと、この場に置いてはならないという緊張感すら漂う。
有無を言わせない、私に選択権を与えない確固とした物言いだった。
それは口調だけでは無く、私を助け起こす腕にも表れているように思う。
この二人は、二人きりで話さねばならないのだ。
そう。
二人きりで。
私だってそんな場面に、のんきに立ち会っていられるほど図太くはない。
むしろ、即刻立ち去ってしまいたいに決まっている。
こんな時、思うように駆け出せない自分の足を悔しく思う。
「フルル。掴まって」
この時ばかりは腰に回された腕に、素直にすがる。
「スレン」
二人に背を向け歩き出すと、地主様が呼んだ。
「頼んだ」
「任せて」
そっと振り返って見ると、地主様もルゼ様も既に背を向けていた。
先程から、ずっと。
地主様は一度も、こちらを見ようとはしなかった。
全く! レオナルは何だってこんなに奥の部屋を、フルルに与えたの? って訊くまでもないか」
やれ遠すぎるだの、フルルが大人しく抱えられてくれれば話しは早いのに、とぼやきながらスレン様は付き添ってくれた。
それすらも彼なりの気使いと感じてしまうから、不思議だ。
「着替え、手伝おうか?」
「結構です」
部屋の扉の前につくと、スレン様らしくお約束の事を聞かれた。
もちろん、即座に断る。
「一人で大丈夫?」
「もちろんです」
「そう。なら、いいんだ。慌てなくてもいいけど、急いでくれる? リディアンナが待っているから」
それは大急ぎで、手際よく着替えろと言うことだろうか。
神妙に頷く。
「リディアンナ様が?」
「そう。僕と一緒にリディの屋敷に行くよ。ジルナ様も待っているからさ」
ジルナ様とはここの所、お会いしていなかった。
体調がすぐれず、寝込んでいると聞いている。
そう教えてもらったのは実は最近で、お祭りが終わった後の事だった。
何でもジルナ様は、赤ちゃんが出来て「つわり」に苦しんでおられるそうだ。
「でも、ご病気な訳ではないらしい、から」
そう努めてなんでもないように、笑って見せてくれたが、リディアンナ様も心配していた。
私もジルナ様にお会いしたい。
強く頷いて見せる。
「わかりました。急いで着替えます」
「ん。じゃあ、この辺で待ってるよ」
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そして私は見てしまったのだ。
窓辺から、親密に語らう様子の二人を――。
