公爵令嬢?
目の前の女性は、間違いなく高貴な方なのだ。
公爵様のお嬢様というご身分の方がどうして、ここにいらっしゃるのだろう?
慌てて私も頭を下げた。
「カルヴィナ? 古語で夜露って意味ね。レオナルにしてはやるじゃない」
跪いてうやうやしく礼をする地主様に、遅れを取ることもなく、この女性は手を差し伸べていた。
「あらあら。わざわざご丁寧に呼ばわってくださるのね? レオナル。それで私を子猫ちゃんに説明したつもりなのかしら?」
地主様はやや、ためらってからその白い指先を取ると、唇を寄せられた。
触れるか、触れないかという所でルゼ様が声を掛ける。
「いつも通り呼び捨てでも構わなくてよ?」
お姫様と騎士様の関係が、目の前で繰り広げられていると思った。
何と絵になる二人だろうか。
感嘆のため息が漏れそうになる。
それなのに、またしてもこの胸を重くする澱の正体は何だというのだろう。
二人は完璧だった。
何というか、その。
寄り添う雰囲気が、何者にも犯しがたく感じられる。
「客間にはまだ、戻りたくありません」
きっぱりとルゼ様は仰った。
「もう少し庭を散策してからでもいいでしょう? レオナル、案内してちょうだい」
「……仰せのままに」
ただならぬ様子に早く立ち去らねばと頭を下げて、杖を引き寄せた。
「公爵様のお嬢様とは知らなかったとはいえ、ご無礼をお許し下さいませ。その、私は、これで失礼致します」
「ちっとも構わなくてよ。あら。子猫ちゃんは一人では上手に歩けないのね」
「……はい。でも自分で歩けますから、大丈夫です」
なるべく、何でも無いことのように受け流して、立ち上がろうとした。
足場が柔らかいため、少しだけよろめく。
でも、スレン様が後ろから支えてくれた。
