この方は、かわいそうな人なのかもしれない、だなんて。
そう思った私が馬鹿だったに違いない。
確かに寂しい気持ちは本物かもしれないが、だからといって黙ってからかわれているなんて、嫌だ。
「私、子猫なんかじゃありません」
「じゃあ、何だっていうの? 子猫ちゃん」
「大魔女の娘です」
「ええ。知っているわ? 何でも真の名は名乗れないのだ、という話でしょう。だったら好きに呼ぶしかないじゃないの」
それがどうかして? とでも続けられてしまいそうで、私は言葉を失う。
でもそのまま、見失っては駄目だと自分を叱咤した。
それに、どうして私の事を知っているのだろう?
その事にとてつもない違和感を覚えるのは、何故なのだろうか、気持ちが悪かった。
もやもやとした重い澱(おり)のようなものが、胸に積もってゆくかのようだった。
振り払い様もなくただ、ただ幾重にも重なって行く。
「さ、さようでございましたか。私は地主様にお仕えしております。失礼ですが、お客様はどなた様で……。」
「カルヴィナ! ルゼ!!」
「ルゼ、様を付け忘れちゃダメでしょ、レオナル」
――いらっしゃいますか?
思い切って尋ねた言葉は、続ける前に遮られていた。
・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・
聞きなれた大きな声が二つ、聞こえたと思ったら、あっという間だった。
地主様とスレン様が駆けつけてきた。
彼らにしては珍しく血相を変えている。
その勢いに押されて、思わず身を引き気味にした。
それに二人とも、お勤め用の正装をしている。
何だか物々しい。
それでも、この傍らの貴婦人は微塵も動揺していない。
それどころか、まるで構ってもいないようにも映る。
いや、先程よりも気安さが薄らいだかもしれない。
表情も笑っているけど、固く、どこかぎこちない。
先程までの屈託のなさは、どこに行ってしまったのだろう。
二人を見ようともせずに、つまんだままの前掛けの紐を見ているだけだ。
「ルゼ――。ジャスリート公爵令嬢どの。このような場所ではなく、どうぞ客間へお戻りください」
地主様も目線を合わせるようにしてから、きっちりと頭を下げられた。
スレン様までもが同じようにした。
