大地主と大魔女の娘



 この方は、かわいそうな人なのかもしれない、だなんて。

 そう思った私が馬鹿だったに違いない。

 確かに寂しい気持ちは本物かもしれないが、だからといって黙ってからかわれているなんて、嫌だ。


「私、子猫なんかじゃありません」


「じゃあ、何だっていうの? 子猫ちゃん」


「大魔女の娘です」


「ええ。知っているわ? 何でも真の名は名乗れないのだ、という話でしょう。だったら好きに呼ぶしかないじゃないの」


 それがどうかして? とでも続けられてしまいそうで、私は言葉を失う。

 でもそのまま、見失っては駄目だと自分を叱咤した。


 それに、どうして私の事を知っているのだろう?


 その事にとてつもない違和感を覚えるのは、何故なのだろうか、気持ちが悪かった。

 もやもやとした重い澱(おり)のようなものが、胸に積もってゆくかのようだった。

 振り払い様もなくただ、ただ幾重にも重なって行く。


「さ、さようでございましたか。私は地主様にお仕えしております。失礼ですが、お客様はどなた様で……。」


「カルヴィナ! ルゼ!!」 

「ルゼ、様を付け忘れちゃダメでしょ、レオナル」


 ――いらっしゃいますか?


 思い切って尋ねた言葉は、続ける前に遮られていた。


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 聞きなれた大きな声が二つ、聞こえたと思ったら、あっという間だった。

 地主様とスレン様が駆けつけてきた。

 彼らにしては珍しく血相を変えている。

 その勢いに押されて、思わず身を引き気味にした。


 それに二人とも、お勤め用の正装をしている。

 何だか物々しい。

 それでも、この傍らの貴婦人は微塵も動揺していない。


 それどころか、まるで構ってもいないようにも映る。


 いや、先程よりも気安さが薄らいだかもしれない。

 表情も笑っているけど、固く、どこかぎこちない。

 先程までの屈託のなさは、どこに行ってしまったのだろう。

 二人を見ようともせずに、つまんだままの前掛けの紐を見ているだけだ。


「ルゼ――。ジャスリート公爵令嬢どの。このような場所ではなく、どうぞ客間へお戻りください」


 地主様も目線を合わせるようにしてから、きっちりと頭を下げられた。

 スレン様までもが同じようにした。