座り込んで作業をしていた私には、子猫の姿に気がつかなかった。
せめてそれくらいなら、お伝えできる。
「いいのよ。もう、見つけたから」
にっこりとほほ笑みかけられたのに、何故か寒気に似たものを背中に感じた。
「見つけた、ですか?」
「そう」
「どこに?」
「ここよ! 子猫ちゃん」
「え? え?」
「可愛い! なんて素敵な手触りなんでしょう!」
そう言いながら、私の頭を撫で回す。頬や、喉元までも。
あんまり撫でられるから、ショールが脱げてしまった。
それでも手は緩まなかった。
そうか。私は本当は猫の子だったのか。
そんな気さえしてきた。
「ふふ本当に、初めて見る」
この人の言う「初めて」は私の色をさしているのだと思った。
黒い髪。黒い瞳。まとめてカラスとされる色。
私も、こんなに綺麗な女性を見るのは、ジルナ様に続いてお二人目だ。
この方の雰囲気が、私を恐ろしく緊張させた。
こんな時に限って、作業用にと自分でこしらえた服を着ている自分が恨めしい。
ここ最近はいい付けを守って、きちんと与えられた服を着ていたというのに。
いや、畑仕事をするのに、あの格好では思うように動けないから当たり前なのだが。
そもそも、着ている物が違ったくらいで、私の見てくれは変わりようがない。
それに私は魔女の、自分で作った服を誇りに思っていたのでは無かったのか。
自分が情けなく、浅ましく思えた。
俯く視線と共に、心もどんどん地べたにのめり込むかのようだった。
「どうしたの? 子猫ちゃん」
「……。」
いつのまにか目線が一緒だった。
いいのだろうか。
この方は、お召し物が汚れても気にしないのだろうか。
そこは気にして欲しい気がする。
優しく声が潜められる。
私は本当に猫の子になってしまったかのように、答える事が出来なかった。
ただその翡翠の瞳をそっと見返すことしか出来ないでいる。
どうして、私に構うの?
あなたは、誰ですか?
そんな簡単な言葉ですら、この方に掛けるのははばかられた。
それでもこの方は解ってくれたようだ。
「何だかとっても寂しそうだったから、つい、ね」
つい? なんだというのだろう。
「構い倒したくなるというものでしょうよ。そんなに、お耳としっぽがしょんぼりしているように見えたら」
私には耳はともかく、しっぽなんてあった試しなんてない。
それを見透かしたかのように、女性はいたずらっぽく笑った。
その笑顔があんまりにも綺麗だったから、見とれてしまう。
「ほら、しっぽ」
そう言うと私に見せたのは、解けた前掛けの紐だった。
細い指先につままれた紐を、ひらひらと見せられる。
からかわれた。
そう思ったら、頬が火照った。
