何の根拠もなくそう信じて疑わなくなっていた。

 それを人は傲り(おご)という。


 大魔女の娘に森が与える恵みとやらと、ロウニア家の材が与える恵みを計りに掛けてみよと、暗に命じていたに等しい。


 娘の答えは決まっていた。


 仕立てた上等の服も、品数豊富な食事も、働かずとも良い環境も、何もかも負担らしい。


 それはこの俺が負担でならない、と言われているも同然だった。


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 だが、カルヴィナは俺に腕輪を贈ってくれた。


 この胸に広がる歓喜のまま、愛しい娘を抱きしめる事も許された。


 やっと、大魔女の娘が俺を受け入れようとしてくれたのだ!


 二度と踏みつけたりするまい。


 そう誓うのも何度目になるのだろうか。


 祭りを終えて、カルヴィナは少しづつ、ロウニア家に馴染んでくれた。

 彼女なりに譲歩に譲歩を重ねてだろう。


 こちらの用意した服も着てくれるし、たまになら一緒に食事もとってくれる。


 そこはよく話し合うようにと心がけた。

 ともすれば最初から諦めて、俺の言うことに従おうとするからだ。

 俺も、俺の価値観だけで押し付けることのないように、と気を配ったつもりだ。


 祭りが済んだ後も、カルヴィナは森に帰りたいと言ってきた。


 その時の落胆ときたら、自分でも驚くほどだった。


 帰りたい、だと?


 おまえの帰る場所はここだと言い聞かせたいのを、かなり堪えた。

 だが遠回しにでも、そのように伝える。


「カルヴィナ。おまえ一人を森におく訳にはいかない」

「……どうしてでしょうか?」

「おまえが心配だからだ。これから冬を迎えると言うのに、一人では何かと不便だろう? それに何より俺の気が休まらない。分かってくれるな?」


「はい」


「だが、たまになら帰ってもいい」

「ありがとうございます!」

「ただし、俺も一緒に行ける時だけだ。いいな?」

「で、でも。それでは地主様にお手間を取らせてしまいます」

「カルヴィナ、そんな事はない。おまえはもうロウニア家に属しているのだ。それがどういうことか考えてみてくれた事があるか?」

「いいえ」

「おまえを良からぬ事に巻き込みたくないのだ。ロウニアの財に目を付けた人間だって、いないとも限らない。俺自身、敵も居ないわけではないのだ。そういう輩は大魔女の獣よけ位では防げるものではない。そうだろう?」

「はい」


 淡雪のように儚い笑みを向けられたように感じる事に、俺は安心しきっていた。


 どうもこの館にいると、カルヴィナが俺に対して一線を引くように思えた。


 大地主と大魔女の娘という距離感を守る。


 そうさせているのは、このロウニア家特有の空気だろうか。

 それとも俺自身か。


「カルヴィナ。これから森に出かけるか?」

「はいっ!」


 俺がそう切り出すと、カルヴィナの表情が輝いた。


 あれほど縮まったと思った距離も、この館にいてはまるで無かったもののようにされてしまう。


 だから俺はカルヴィナを森に誘う。