景色がどんどん後ろに流れていく――。
駆け抜ける疾走感に翻弄されてしまう。
どうしたって、スレン様にしがみつくより他はなかった。
その手触りには覚えがあった。
お祭りの準備中の地主様もこの手触りだった。
厚みがあって、ゴワゴワとしていて、何となく取っ付きにくい。
これこそが、彼の言う大事なお勤め服とやらに違いあるまい。
色合いや意匠こそ異なるが、地主様が神殿に行かれる時の服装に似ていた。
それに身を包んだ人を引き締めて見せる上等の衣服は、けして派手ではないが地味でもない。
表情も、雰囲気までも、何もかもが少し違って見せるのだ。
それこそがこの衣装の目的なのだろう。
重役の任務に当たるというのがどういうことなのか。
それを垣間見せてくるようで、私は苦手に思っている。
その襟首に刺繍された蛇と絡む蔦の紋様が、神殿の象徴だと言うことくらい私だって知っているからだろうか。
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神殿。
そこに集うは能力者として名乗りを上げた人たち。
あるいは見出された人たちだという。
おばあちゃんからは、そう聞いている。
古 (いにしえ)から語り継がれた叡智と自然からの恩恵の、集約の場。
様々な人々の想いが編み出した魔術というものが加わって、独自に発展しているそうだ。
政 (まつりごと)は中央政権、すなわち王族が主だって行う。
それとは別に祭事は神殿が行うのだ。
神殿が祀るのは女神デルメティア。
彼女が司るのは豊穣だ。
乙女に身をやつした女神が、この地に降り立ったという言い伝えは子供だって知っている。
その乙女がこの国の王族の祖先と恋に落ち、その身に命を宿したという事も。
女神は母となり、やがて豊穣の大地となった。
その夫に選ばれた者は、その実りを国中に分け隔てなくもたらす事を誓い、王として認められた。
そんな二人の間に生まれた子もまた、この国を導いたという。
それがこの国の王族の始まりとされている。
だが豊穣の女神の方は血の流れに則って現れる訳ではなく、常に生まれ変わり続けているらしい。
この国の乙女として生まれたものは皆、女神様の血を受け継いでいるとされているのだ。
だから神殿を統治する王は世襲制ではなく、時が来たら自然と選ばれるもの。
一度もお目にかかった事はないが、今の巫女王様はご高齢であるらしい。
既に70歳近いというのを、おばあちゃんから聞いた事がある。
おばあちゃんと同じくらいの歳だ。
その御方こそが、地主様がお仕えしている尊い御方なのだ――。
