大地主と大魔女の娘


 スレン様はそんな私を庇うように抱き込んで、地主様の視線を遮ってくれる。


「フルル? 一体、何があったんだい。レオナルに虐められたのは間違いなさそうだけど」


 こっそり尋ねられた。

 声をひそめて答える。


「杖……折られて、投げつけられたの」


 何とか声を絞りだして、そう短く訴えた。

 ただ、それだけだ。

 再び涙がこみ上げてしまう。


「そうか。それはレオナルが全面的に悪いね。よしよし、怖かったろう」


 大きな手が頭を撫でてくれる。

 初めてあった日にされた、飼い犬のケインとやらにするのとは、ちょっと違う手つきだった。

 どうしたのだろう。

 スレン様が優しくて気味が悪い。

 それでも今はこの優しさにすがってしまった。

 胡散臭く感じながらも。

 
 私を見せないようにしながら、スレン様は怒鳴った。


「レオナル――!! フルルにとったら杖は自分の足なの! それをそんな風にされたら、自分を痛めつけられたと思うにきまっているだろう! 謝れ」


「ああ。カルヴィナ、すまなかった。おまえの口からあの男の名を聞いて、つい……。カッとなってしまった。許してくれるか?」


 その声はすごく静かだった。

 静かすぎて深く沈み込んでいくかのよう。

 地主様は深刻なまでに悪いことをしたと、思ってくれているのが伝わってくる。


 そっと窺うと、目があった。


 その様子がまるで、叱られている時の彼の猟犬に見えてしまった。

 それも盛大に雨に打たれた上に、なおかつ怒鳴られた後みたいなうなだれ具合だ。

 いつもの堂々とした地主様のお姿に変わりはない。

 でも醸し出される雰囲気が淀んで暗い。

 急に罪悪感を覚える。


「カルヴィナ?」

「……はい」

 ただ、頷いて何とか声を絞り出す。


 とたんに立ち込めていた暗雲が晴れたかのように、地主様の表情が明るくなった。


 その事に安堵する自分もいる。

 何だか肩の力が抜けた。


「よしよし。仲直りだね」

「スレン。もう離してやれ」

「まだ、ダメ」

「離せ」

「ダメ」

「返せ」

「ダメッたらダメ」


 スレン様は断固として譲らなかった。