「おは、おはよう、ございます。じ、ぬしさま?」


 「レオナル」


 ただ一言をきっぱりと。


 何だろう。

 昨日の事は幻か何かでは無かったのだろうか?

 そう。

 お祭りの独特の空気に浮かされた熱が見せる幻。

 そんな期待も一気に消し飛ぶ一言だった。


 ギロリと表現するに相応しく見下ろされ、全ての感覚も思考も麻痺してしまう。

 身体を支配しだすのは恐怖だ。


 彼から放たれるのは、不機嫌さの混じった威圧感としか表現できない。


「……っぅ、ふぇっく」


 思わず情けない声が漏れた。

 どうして私は頼りない下着姿一枚で、地主様は上半身裸なのだろう?


 それだけでも異常事態だと認識するのに充分だった。

 恥ずかしいのと怖いのとで、思わず身を隠したくなって掛け布を引っ張り上げる。


 だがそれよりも地主様の動きの方が早かった。

 後ろから羽交い締めにされてしまう。


「っあ!」


 最初は悲鳴が押し出されるほどに強く、たくましい腕が私の身体に巻き付く。

 やがてゆっくりと加減され、息苦しさは薄れた。

 それなのに。

 苦しさからは解放されたはずなのに、私の胸は軋みを上げている。


 何も身に付けていない部分の素肌が触れ合っている。

 そこから伝わってくる熱は、地主様の持つもの。


「地主様」

「レオナル」


 首の後ろに押し当てられる柔らかさに、不自然なほど体が跳ねた。


 胸が痛いくらいに早打つ。


 ちりっとした痛みに、何事かと身体を捩って地主様を見ようとした。

 でも密着しすぎているせいで、それはかなわない。

 やがてその小さく焼け付くような痛みは引いた。

 でも、微かに痛みを覚える。

 それはまるで指先に火傷を負った時に似ている。

 火から手を引っ込めて水で冷やしても、どうしたって肌に痛みは残る。

 それに似ていた。


 同じ痛みが胸元に居座っているのに、今更ながら気が付く。


 この感覚が小さいながらも無数に、散らばっている事に私は怯えるしかなかった。


「地主様、あの」

「……。」

「ん、やっ!」


 今度は何も言われなかったが、また同じように首筋に痛みを与えられた。

 レオナル。

 そう名を呼べと無言で責められているに違いない。


「放して下さい、地主様」


「……。」