俺の不埒な想いに勘づいたのか、カルヴィナは震えていた。

 それとも。

 これから迎えるであろう、二人きりの夜を思って身を震わせているのか。

 スレンを睨めば、知らばっくれるかのように視線を逸らされた。


「遅いよ、レオナル。待ちくたびれたじゃないか。ところでリディは?」


「何を言う。ほんの少しの間だったぞ。――リディなら子供たちと一緒だ」


 更に視線で問い詰めたが、スレンはおどけたように肩をすくめて見せるだけだった。


「待たせたな、カルヴィナ。くたびれたんだろう。これを飲んだら横になれるよう、戻るか?」


 跪いて覗き込めば、不安そうな瞳がおずおずと見つめてくる。


 間違いない。

 スレンが余計な事を吹き込んで、カルヴィナを怯えさせたに違いないと確信した。

 だがそれも、このアラクエア・ヴィータエにかかれば身の内に沈み、新たな熱源と成り代わってくれるだろう。

 心の中で亭主に素直に感謝した。大魔女にも。


 全部を飲みきる前に、カルヴィナは杯を落としてしまった。

 だが僅かだが口にし、それはカルヴィナの喉を潤しながら、体の奥深くへと染み渡っていったはずだ。


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 その証拠に、先程よりも口調が格段に甘くなった。


「ん、んっ、……いや、なの。あ……レオナル様ってちゃんと呼ぶから、怒らないで」


「いや、レオナル様。服くらい自分で脱げます」


「私はそこまで子供じゃありません」


 あまりにも可憐な様子と、およそいつものカルヴィナらしからぬ大胆とも取れる言動に、心が乱される。

 自分は子供じゃないと言い張るカルヴィナがいじらしく、愛しさが募るばかりだ。

 子供じゃない。

 だったら大人とみなして扱ってくれと言うことだろう。


 俺はすっかり気を良くして、柔らかな肢体を支配する事だけを考えた。

 思う存分味わい、酔いしれて行く。


 体中に貯まる熱を持て余しながら、甘く香る肌に夢中になって印を付けた。


 明朝、その赤い刻印を一緒に数えてやろうと思いながら。


 やがて甘く痺れさせるような悲鳴が、穏やかな寝息に変わって行く事に耳を疑った。


「おい?」

「……。」


 返事はない。


「俺を殺す気か」


 揺さぶってみたが、やはり反応は無くなっていた。


 煽るだけ煽られて勢いを増した炎は、


燃やし尽くすべく次々と求めているのに――。


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 寝込みを襲っても面白くない。

 第一、カルヴィナを悲しませるだろう。


 とんでもない忍耐を強いられながら、迎えた朝日は無情に思えた。

 無慈悲までとさえ。


 大魔女の乾いた高笑いが、風にのって聞こえてきそうだ。


「カルヴィナ。昨晩は無茶をしたものな。よく眠っていた」


 意地悪く、含みを持たせて言い放つ。

 所有の証を強調するためにも、カルヴィナの意識が覚醒した今がその時だ。


 慌てて掛け布で身体を隠そうとするカルヴィナを、腕の中に捕らえた。