大地主と大魔女の娘


ずいと差し出された杯から立ち上る芳醇さは、間違いない。

 アルコールと称されるものだ。


「強すぎる。とてもじゃないが娘の口には合うまい」

「なあに。心配はいらない。こいつにはコレで薄めるんだ! さあ、大魔女直伝の薬を漬け込んだ砂糖水だ! 今夜を迎える無垢な娘っこ達とその相手のための、薬効たっぷりだぜ」


 手際よく杯に砂糖水を注ぎ足すと、男は杯をずいと差し出してきた。

 まじまじと男を見下ろす。

 太い眉は下がり気味で、いかにも人の良さそうなオヤジだ。

 その顔は酒のせいか赤らみ、まるで締まりというものがない。


「おおっと。旦那みたいな伊達男にそんな風に熱心に見られちゃ、たまらんね!」


(ばあさん。何を伝授してやっていたんだ)

 心の中で問いかける。


「旦那。お嬢ちゃんから腕輪を貰ったんだろう」

「ああ」

「しかも! そいつは野郎共が恋焦がれる赤い石飾りだ。ってぇ事はだ」


 俺の腕を引き、腕輪に触れようとしたので振りほどいた。

 これは誰にも触らせたくない。

 カルヴィナ以外には。


 そんな俺の様子に気を悪くした様子もなく、亭主は気安く腕を肩に回してく
る。

 酒臭い息から逃れようと顔を背けたが、思いのほか強い力に引き戻される。


 ―― 今 夜 は 決 め る し か な い ぜ 。


 ざわりと血が波打って、体中を逆流したように感じた。


 一点を見つめる俺に、亭主はここぞとばかりに畳み掛けてくる。


「石を贈り、それを受け取った者は森の神の名のもとにおいて、結ばれる運命にある二人だ。しかもだな、旦那は神様役をお務めくださった。お嬢ちゃんは巫女役ときている。このお役目をまっとうした二人が夫婦の契を交わすのが、ほとんどどだ。何を隠そうこの俺と、母ちゃんもそのうちのひと組みだ」


 俺の中で何かが弾けて、結びついた。


 何だ。

 そうか。

 食っていいのか。


 むしろあれは今にも食されるのを待っている、熟れかけた果実そのものではなかろうか。


 まだ花開いたばかりのような瑞々しさでもってして、虫や鳥を誘うような。

 その薄く開かれた花弁を味わうべく舌を差し入れてみれば、甘く酔わせる。

 だが花は、そのままでは花のままだ。

 誘われた虫や鳥の力を借りて、身を結ぶものだ。


 まだ幼さを残した心と体では、確かに何かの手助けが必要だろう。

 どこのオヤジとも分からぬ、ましてや初対面の男の押し付けるままに、杯を受け取っていた。

 二つ。

 右手に受けた杯はその場で呷った。

 カルヴィナから贈られた赤い石が光る。


「おお! 旦那、応援しているぜ」


 何だ。

 そうか。

 食っていいのか――。


 妙にそう確信していた。