「さあ、命の水だ」
アラクエア・ヴィータエ。
古語と今の言葉が入り交じった不思議な調べを持つ言葉の意味するところは。
酒である。
確かに水分には違いない。
「いや、あの娘には純水が必要なのだが」
「だからこそ相応しかろうよ。この命の水が」
「いや……。あれはあまり酒に強くない」
「旦那。」
ぽん、と軽々しくありながらも、嫌に重々しく肩に手を置かれる。
「こいつこそが、旦那と娘っ子に必要な水に違いなかんべ!!」
――こいつは酔っぱらいだ。
そう素早く判断して、くるりと背を向けた。
リディアンナも同じく倣う。
「ま・ま・ま・まあ! 待っておくれよ、旦那!」
とりなすように独特の軽い口調で呼び止めてくる。
男はしつこかった。
何だろう。初対面のはずだが。
いつぞやの酒場でのオヤジ共が浮かぶのは何故だろうか。
夜空の下にあってさえ、主張してくる赤毛な所がまた……。
「リディ。先に戻っていてくれ」
「はい、叔父様。私も少し、お祭りの輪に加わってもいいかしら?」
「ああ。ここで見ている」
姪っ子を遠ざける。
リディアンナは素早く俺の意図を汲み取って、身を翻していた。
「賢いお嬢ちゃんだなぁ。アッシらに気を使ってくれたんだな」
そうしみじみ呟きながら、背を見送っていた。
「俺は長い事、祭り行事に参加しているが今日もまた感動した。ああ、いいなぁ、若いっていうのは!」
「そうか。それは何よりだ。連れを待たせているのでこれで失礼する」
「だから待ってくれ、旦那。前振りが長くて悪かったよ。巫女役の魔女っこはもちろんの事、神様役の旦那の姿に俺は……! きゅうぅんとこう、胸の当たりがだな!」
いい加減、解放してはもらえないだろうか。
前振りとやらはどこまで続くんだ。
「持病でもあるのか、亭主」
「ひでぇや、旦那。つれないにも程があらぁな」
「前振りはここまでだ。さあ、これを旦那の嬢ちゃんに飲ませてやっておくんな!」
「断る。あれは酒に弱い」
「違うって旦那! これはアラクエア・ヴィータエ。すなわち命の水だ!」
「……。」
