そういえば、と気がつく。

 この方はあまり感情の波がない。

 今にして想えばそれは不自然なほど。

 おかげでさらわれることなく、自分を保てる。


 こうして盛大に触れられていてさえも、その感情は穏やかなものしか伝わってこない。


 不思議に思いながら見上げていると、スレン様はまた意味ありげに笑ってみせる。

 ゆっくりと私を四方から眺め回しながら、一周すると再び真正面に立った。

 やっぱり頭のてっぺんからとっくりと眺められる。

 緑の瞳が私の瞳と合わさる頃には、頭を撫で付けられていた。

 おそらくスレン様の昔飼っていた「ケイン」にするような調子で。


『ふふふ。かわいいね。本当にフルルは見事なカラス娘だねぇ。闇に溶けてしまいそうだよ。ああ、それとも闇から生まれた? 魔女の娘』


 本当に人を心から弄ぶような、なぶるようなモノを見るような笑い方をさせたら、この方の右に出るものはいないと思うのだ。


 この責め苦はいつまで続くのだろう。

 スレン様が飽きるまでだろうか。


 この方の感情の波が穏やかな分、良くも悪くも予想がつかない。


 仕方なく身を任せる他になさそうだ。

 そう諦めかけたその時だった。


『そうそう。レオナルの事、教えてあげようと思ったんだった!』


 そう。

 この方の抱く感情から私に対する悪いものは感じ取れない。

 だから警戒しきれない。

 いつだって私を、感情の荒波に放り込むような真似をするというのに。


 そこは何故なんだろう?

 気に入らないから?


『知りたいでしょ? 知りたいよねぇ? いつも優しいレオナルのこと』


 頷くものか。


 せめてそれくらいの抵抗くらい出来なくてどうする。

 そう自分を叱咤して唇を引き結んだ。


『……。』

『無言は了承と受け取るよ』

『知りたくありません』

『どうして?』

『スレン様の口から聞いて知ろうとは思いません』

『あれあれ~? さっき僕の手を取ったじゃないか』

『それは、あの』

『まあいいじゃない。聞いておきなよ』


 結局はスレン様が喋りたいだけなのではないか。