身体に力が入らないまま地主様をぼんやりと見上げると、一瞬だけ視線をそらされた。

 それもただ眺めた。

 そこに置いてきぼりにされたかのような寂しさを覚えた。

 だから無意識のうちに、眼差しですがっていたのだと思う。

 それに気がついたように、地主様は視線を戻してくれた。


『そんな顔をするな』


 どんな顔の事だろう?

 顔を真っ赤にするなって言うことかと思い、頬に手を当てた。

 ほてりを冷まそうとしてだったけれど、逆効果だとすぐに気がついた。

 手のひらも、負けないくらい熱かったから。


『いや、違う、カルヴィナ……。』



 抱え直され、ゆっくりと頬に当てた手を外された。

 まだあのどこか熱の名残のある眼差しに、射すくめられる。


『どうしてこんな事をするのだと言いたそうだな』


 それもある。

 だから、ひとつ瞬いて答えた。


『俺も乙女を求める獣の視線と交わったのだ』


 地主様は、ぽつりとそう漏らされた。


 そのまま抱き上げられ『もう降りるぞ』と宣告されたのだ。


 どうか熱よ冷めて。


 せめてやぐらを降りるまでには。


 そう願ってみても、余りにも時間が短すぎた。


 いくら視界を遮ってみても、耳に届く楽の音がそれを許さない。


 だんだんと近づく、人々の楽しそうな笑い声が音楽に乗って、大きくなってくる。