大地主と大魔女の娘


 地主様――シュディマライ・ヤ・エルマが唸るように言った。

 仮面が近づく。


 仮面の紐が落ちて、首元をくすぐる。

 やはり、紐が緩んでも仮面は外れないらしい。

 房飾りに手を伸ばす。

 弄ぶように引くと、仮面がもっと近づいた。

 肌をかすめるほどに。


 房飾りを辿り仮面に手を伸ばすと、地主様の髪にたどり着く。


 地主様の髪の毛は思った以上に柔らかだった。

 艷やかに光を反射する、あのオークの実と同じ色から、もっと硬さを想像していたのに違っていた。

 思わずもっと絡めようと、指先を伸ばしてしまう。


 さ迷わせた指先を捕われた。


 動きを止められたのだ。


 引こうとしても遅かった。


 またしても目を閉じてしまった。


 だが、次の瞬間にはすぐさま見開く。


 覚えのあるあたたかな弾力に、指先が包まれていた驚きから。


 まずは人さし指の先を、次いでは中指の腹を伝い、薬指の根元から、手のひらへと温かさが移動していく。

 手のひらに頬をすり寄せられるようにされてから、その中心に唇を押し当てられていた。

 熱が手のひらから、体の奥深くまでにじんわりと伝わって行くのを感じる。

 その熱をやり過ごせなくなって、それを伝えようとどうにか抗う。

 親指で彼の唇を押しとどめたつもりだったが、ただその輪郭を確かめただけに過ぎなかった。

 そっと這わせただけの指先にまた、唇が押し当てられる。


 おとこのひとに、初めて触れたと思える瞬間だった。


『あ……っ、や』


 もはや言葉に何てならない。

 仮面がぐっと近づく。

 だが獣を模した作りが、一定以上の距離を保たせる。


 地主様にはこれ以上触れる事はない。


 そっと仮面にも指先を這わせる。


 伝わるのは乾いた木の感触のみ。


 その時――初めて仮面が邪魔だと思った。