『泣くな』
命令をくだされたかのような重さが、耳に沈む。
従わなければと頷いたつもりだったが、そのまま首を引いたままで固まる。
『泣かないでくれ』
懇願の響き。
そろそろと瞳をあければ、飛び込んできたのは黒い仮面だった。
その獣の毛並みを象った、彫りの向こうにある眼差しとぶつかる。
しばし見つめ合う。
先に視線を外したのは、地主様の方だった。
瞬きで涙を払うと、眼差しで追いかける。
『地主様?』
『……。』
やはり返事はない。
では、地主様ではない?
何故かそう思った。
『シュディマライ・ヤ・エルマ?』
びくりと地主様の肩が揺れた。
『シュディマライ・ヤ・エルマ』
もう一度呼んだ。
今度は確信を込めて。
そうだ。
これは地主様であって、地主様では無い。
そんな気がした。
仮面に込められた何かに、地主様は突き動かされているのかもしれない。
『……真白き光』
そう呼ばれた。
胸のどこかが軽くなった気がした。
そうだ。やっぱりそうだ。
シュディマライ・ヤ・エルマだった。
彼は飢えた獣なのだった。
乙女がその傍らに在らなければ。
片方の手首が自由になっていた。
地主様の右手に頬を包むようにされる。
かと思えば指先が、唇をなぞる。
くすぐったくて、思わず自由になった手で止めようとした。
地主様の手に手を重ねる。
そうやって触れたけれども、押さえることは出来なかった。
『シュディマライ・ヤ・エルマ。私を……食べるの? 食べたら、飢えは収まるの?』
これはお祭りの続きだと思ったから、そう口にした。
食べるという表現が果たして相応しいのかどうかは、解らない。
