その薄い身体を見ているうち、何故だか心が軋みを上げる。


(ばあさんが生きているうちに、気が付いてやれれば良かった)


 そんな後悔にも似た、自責の念にかられる。


 不意に囚われた悲しみを沈めようと、杯を呷った。


『女性はそうだろう』


 花を咲かせ、実をつける。


 命を生み出すその様は、まさにカルヴィナの望む姿そのものだと言えるだろう。

『そうでしょうか? でしたら、嬉しいです』


 微笑みながら、自分の好きな木について話すカルヴィナは饒舌だった。

 俺なら考えもつかない事を言う。

 物の見方がまるきり違うようだと思わせた。

 だが不快ではなかった。

 むしろ心地よい。


 小鳥が陽ざしの中でさえずるかのようだ。

 足を投げ出してくつろぎ、にこにこしながら俺に語りかけてくる。

 美しく可憐な小鳥。

 小鳥はたいそう可愛らしく、魅惑的な手触りをしている。


『あちこちに花が付いている』


 そう言うと、カルヴィナは自身を手で払うようにした。


『ありがとうございます。取れました?』


『取れていないな』


 嘘だった。


 すかさず手を伸ばし、頭や背を撫で払うようにしながら引き寄せる。


 カルヴィナは大人しくされるがままだ。

 無防備な。

 あちらこちらに、花が付いているから。


 俺の意図など深く勘ぐりもせず、素直に受け取っているのだろう。


 隙あらば触れようとする手に、何故なんの警戒も抱かないのか謎だった。

 この娘はよくも悪くも、言葉通りに物事を受け取る。

 言いくるめやすい。

 そこに付け込む自分が卑しい。


 それとも昨晩ほどの触れ合いくらいでは、この娘に男を意識させるに到らないのか。


 杯に酒を注ぎ、差し出す。


『おまえも飲むといい』


『でも、それはお酒なのではありませんか?』


『これならおまえが飲んでも問題なさそうだ。充分に薄めてある。それに、これを飲み干すまで、やぐらを降りてはならないそうだ』


『え! そうなのですか。初めてやぐらに上がったので知りませんでした』


 カルヴィナは驚きながらも、俄然はりきり出した。


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 瞳が挑戦的に杯を見つめている。


 籠の中身が空になるまで。


 瓶の中身が空になるまで。


 やぐらから降りてならない。


 それが森の神役と乙女の役割だと、使命感を覚えたらしい。


 ――大魔女の娘は、なぜこうも簡単に騙されるのか。