「せぇの!」

 一番年長と思われる男の子の掛け声を合図に、子供たちが歌いだす。

『森のおくの』

『そのまた奥の』

『奥深く』

『そこには森の』

『森の』

『神様と呼ばれる』

『気高い』

『獣がおりました』


 古語のせいもあり、意味を理解できないまま歌っている子もいるのだろう。

 幼さゆえの舌足らずも相まって、やや、調子が外れてしまう。


 それでも幼い歌声はのびやかに響いてゆく。

 素直な歌声は微笑ましい。

 思わず涙ぐんでしまうほどの、清らさがある。

 背後から微かに鼻をすする音が聞こえてくる。


 そっと振り返ると、ミルアが堂々と涙を流していた。

 彼女のこういう所は素直に見習いたいと思う。本人には告げないけど。

『その姿はまるで』  

『まるで』

『疾風まとって動く暗闇』

『皆がそう呼ぶその頃は』

『獣はまだ獣でありました』


『その魂を鎮めるただ一人の娘と出会うまでは!』


『疾風まとう暗闇は獣でありました』



 シ ュ デ ィ マ ラ イ ・ ヤ ・ エ ル マ !


 最後に大人達も加わって全員で、森の主の名を呼ぶ。


 さあ、地主様の出番だ。