女の子はにこにこしている。
深い緑の眼差しは、雨に濡れた森の木々のようだ。
どこか懐かしさを湛えた色に、つられて微笑み返す。
女の子も、より一層笑みを深めた。
ふっくらとした頬に浮かぶえくぼが可愛らしい。
何の警戒心も持っていないのは明らかで、やはり、村の手伝いの時に一緒だったのかもしれないと思い直した。
「なあに? どうかした?」
女の子は私の両手をすくい上げて、ぎゅっと握った。
「え?」
屈むようにと手招きで促がされ、少し背を丸める。
『今日は祝福があるからね。何にも心配いらないよ、- - - - 』
「!?」
耳元で囁きこまれた言葉は、古語だった。
しかも完璧な発音。
それより何より驚いたのは、この子が私の真名を呼んだからだ。
言葉が出てこなかった。
ただ、涙が溢れた。
懐かしくて温かい、安堵のために零れ落ちた証の涙。
それを見届けると、女の子は手を放し、すり抜けるように戸口へと向った。
『待って! どうして』
くすくす笑いながら、その子は扉の向こうに駆けて行ってしまう。
捕まえなくちゃ!
待って、行かないで!
あなたは……?
あなたは誰?
目線だけで縋りつくように、追いかけると、女の子は唇に人差し指を当てて見せた。
大慌てで杖を引き寄せ、扉を開け放つ。
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確かにぱたぱたという軽やかな足音がしたはずなのだが、見渡す限り女の子の姿はどこにも見えなかった。
ただ陽射しだけが、暖かく溢れていた。
