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それから無言で戻った。
一角の君の蹄の音だけが、闇の中に響いていた。
せっかく蓄えた森の力も、楽しい気分も台無しにされてしまった気がした。
地主様に対して失礼だと思ったが、苛立ちは収まらなかった。
『ありがとうございます。----さま』
一角の君の耳元にお礼を囁いてから、別れた。
わざとらしく真名も呼んでしまった。
気高い一角の君は、真名を呼ばれることを良しとしない。
縛られるからだ。
その名を口にする者の意思に、場合によっては良いようにされてしまう事もあるのだ。
私自身それは何と傲慢な行いかと、普段は諌めていた行動だった。
だが、その時は違った。
とても凶暴な想いに駆られていた。
そうして主導権を主張してやらねば、好き勝手されると思ったのだ。
今まで大人しくしていたから、付け上がらせたのだ、きっと。
そのように導き出された答えに、自分自身が一番驚いていた。
おろおろする一角の君と地主様に、何だか余計に腹が立って仕方が無かった。
いつも、大いに威張っているのに、おかしい。
私の顔色を窺うなんて、本当におかしい。
そればかりに気を取られてしまう私が、一番おかしい。
二人に背を向けて、さっさと部屋に篭った。
速やかに部屋の鍵を閉めて横になってはみたものの、興奮していて寝付ける自信など無かった。
明日は大事なお勤めもある事だし、ここはもう無理やりにでも眠ってしまおうと考えて、果実酒に手を伸ばしたのだ。
地主様には禁じられていたが、構うもんか。
寝しなになってようやく、この訳のわからない気持ちに説明がつき始めていた。
何となく、裏切られた気分。
地主様は、「私に、こんな事を絶対にしない。」そう、固く信じていたのだ。
信じる。
信頼するというよりも、疑いもしないでいたというのが正しいのかもしれない。
だって、そうでしょう?
私のような者が側に居るだけで、勘違いされて迷惑だと仰っていたではないか。
きっぱりと、誰がなびくかとお怒りだった。
私のどこが気に入らないかを、スレン様に力強く説いておられた。
この耳でしかと聞いたから、間違いない。
地主様は先々、お嫁さまをお迎えになられるだろうに。
その時までに、私の借金が無くなっているとは到底思えない。
と、言う事は、だ。
私は変わらず、地主様にお仕えしなければならないという事だ。
そうなるのならば。
それは、とても気持ちの悪い事だと思った。
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怖かった。
地主様が。
地主様が、死んでしまわれたかと思った。
心配した。
それから、腹が立った。
それから。
それから。
後から後から一気に、湧き上がって来る感情に押されるように、涙が零れた。
泣きながら目覚めて、鎮まらない怒りの正体に、また泣けてくる。
それでも必死にこらえて、ここまで来たのだ。
今日はお祭りで、私は巫女の役なのだから、頭を切り替えなければならない。
そう言い聞かせながら。
「エイメ。あのさ、とにかく、その。着替えようか?」
ミルアが気を使いながら、慎重に私の髪に触れた。
