大地主と大魔女の娘


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。


 それから無言で戻った。


 一角の君の蹄の音だけが、闇の中に響いていた。


 せっかく蓄えた森の力も、楽しい気分も台無しにされてしまった気がした。

 地主様に対して失礼だと思ったが、苛立ちは収まらなかった。


『ありがとうございます。----さま』


 一角の君の耳元にお礼を囁いてから、別れた。

 わざとらしく真名も呼んでしまった。

 気高い一角の君は、真名を呼ばれることを良しとしない。


 縛られるからだ。


 その名を口にする者の意思に、場合によっては良いようにされてしまう事もあるのだ。


 私自身それは何と傲慢な行いかと、普段は諌めていた行動だった。


 だが、その時は違った。

 とても凶暴な想いに駆られていた。

 そうして主導権を主張してやらねば、好き勝手されると思ったのだ。


 今まで大人しくしていたから、付け上がらせたのだ、きっと。


 そのように導き出された答えに、自分自身が一番驚いていた。



 おろおろする一角の君と地主様に、何だか余計に腹が立って仕方が無かった。

 いつも、大いに威張っているのに、おかしい。

 私の顔色を窺うなんて、本当におかしい。


 そればかりに気を取られてしまう私が、一番おかしい。


 二人に背を向けて、さっさと部屋に篭った。


 速やかに部屋の鍵を閉めて横になってはみたものの、興奮していて寝付ける自信など無かった。


 明日は大事なお勤めもある事だし、ここはもう無理やりにでも眠ってしまおうと考えて、果実酒に手を伸ばしたのだ。


 地主様には禁じられていたが、構うもんか。


 寝しなになってようやく、この訳のわからない気持ちに説明がつき始めていた。


 何となく、裏切られた気分。


 地主様は、「私に、こんな事を絶対にしない。」そう、固く信じていたのだ。

 信じる。

 信頼するというよりも、疑いもしないでいたというのが正しいのかもしれない。


 だって、そうでしょう?


 私のような者が側に居るだけで、勘違いされて迷惑だと仰っていたではないか。
 きっぱりと、誰がなびくかとお怒りだった。

 私のどこが気に入らないかを、スレン様に力強く説いておられた。

 この耳でしかと聞いたから、間違いない。



 地主様は先々、お嫁さまをお迎えになられるだろうに。

 その時までに、私の借金が無くなっているとは到底思えない。

 と、言う事は、だ。

 私は変わらず、地主様にお仕えしなければならないという事だ。

 そうなるのならば。

 それは、とても気持ちの悪い事だと思った。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。・

 怖かった。

 地主様が。


 地主様が、死んでしまわれたかと思った。

 心配した。


 それから、腹が立った。


 それから。


 それから。


 後から後から一気に、湧き上がって来る感情に押されるように、涙が零れた。

 泣きながら目覚めて、鎮まらない怒りの正体に、また泣けてくる。


 それでも必死にこらえて、ここまで来たのだ。

 今日はお祭りで、私は巫女の役なのだから、頭を切り替えなければならない。

 そう言い聞かせながら。


「エイメ。あのさ、とにかく、その。着替えようか?」


 ミルアが気を使いながら、慎重に私の髪に触れた。