大地主と大魔女の娘


 それくらいではびくともしない地主様が恨めしかった。

 結局それごと広い胸に受け止められてしまった。

 なお悔しいったらない。

 わたしばかりを責めて。

 初めての――。

 おまえが悪いと地主様は、そう言って私を責めた。

 そう責めながら口付けてきた。

 身動きできないように押さえつけて、吐息ごと私の自由を奪った。


 奪われたのは身の自由だけではない気がしたが、他に何なのかは解らなかった。

 だからと言って、一角の君に感謝する事など出来なかった。

 訳がわからなくなって、悔しくて泣けた。


「すまなかった、カルヴィナ」


 申しわけ無さそうに呟かれた言葉に、大きく頭(かぶり)を振り続けた。


 私が泣くくらいで困るのならば、おおいに困らせてやれと思ったくらいだ。


 のろのろと立ち上がろうとした時に、手を伸ばされた。


 どういう訳かひどく驚いてしまった私は、その手を叩きつけてしまった。


『嫌っ!』


 思い切り拒絶の声を上げて、身を引いた。

 その拍子に後ろによろめいたが、構うものかと思った。

 むしろ、今後一切構わないで欲しいとも思った。


 いつの間にか後ろに回りこんでいた、一角の君に身体を支えられた。


『我につかまれ。森の娘』

『……ぃ』


 嫌という言葉は飲み込んだ。

 素直に従う。


 その白い首筋に腕を回して縋りつく。


 地主様に背を向けて。


 自分の足で魔女の家に戻るには、それしか方法が無かったからだ。


 そうしなければ地主様にまた、抱え上げられてしまうに違いなかったから。

『我の背に跨っても良いのだぞ?』


 どこか安堵を含ませた物言いで、一角の君はそう勧めてくれたが、首を横に振った。


 振り続けた。