大地主と大魔女の娘


 引こうとする身を許さずに、腕の中に捕らえたままにする。

 それでいて、捕らえられているのはこちらの方だと言ってやりたかった。

 カルヴィナの痛々しいまでに途惑う様子が、腹立たしい。

 あの、危険極まりないと誉れの高い獣には身を寄せておきながら、俺には何一つ許そうとしない。

 それどころかまるで、俺が無理を働いているとでも責められている気がしてならない。

 捕らえて離そうとしないのは、この娘の方だ!

 先程からカルヴィナだけを責め続ける己がいる。


 腕の中に居るのは、忌々しくも夜露で俺を惑わす魔女の娘。


 手に伝わるのは、どこまでも滑らかな手触りだ。

 水に冷えた手のひらに、熱が伝わってくる。

 そのまま、細腰まで滑らせて引き寄せ、密着させる。

 水気を含んだ毛先を頬で払うようにし、首筋に顔を埋めた。

「おまえが悪い……。」

 吐息と共にささやけば、その身を震わせながら、頭を下げて素直に詫びてくる。


「も、もうしわけ、ありません」

 その声までが震えていた。

 ならば。

 その抗い難く魅せつけるのを止めてくれと、声には出さずに唸る。


 俯き、俺の肩に預けていた顔を上げさせた。

 恐れをありありと浮かべた瞳が気に入らなくて、その上目蓋に唇を押し当てる。

 そのまま頬に滑らせ、カルヴィナの上唇に触れる。


 被害者ぶって涙ぐむ、そんな泣き声でまで糾弾されたくない。

 やわらかさに心が震えた。

 まろやかな弾力が心地良く、ただその感触に恐れに似た想いも湧き上がる。

 歓びからだと思い当たったら、何かが落ち着いた。

 腑に落ちたとはこの事だろうか。

 甘さを伴なって走る疼き。

 そのまま食(は)んでから、重ねようと首を傾けた。


『や……っ』


 小さく上がった悲鳴なぞも全て、封じ込めるに限る。


 明確な意思を持って、カルヴィナの細顎を掴みあげて押さえつけた。


 もう逃げられないと悟ったのだろう。


 カルヴィナは固く目を閉じて、されるがままに耐えている。


『っ、ぇ、っく』


 いよいよ本格的にしゃくり上げ始めた上に、顎を掴まれているせいだろう。


 居場所に困ったらしい、小さな舌がうごめく。


 ひどく胸が痛むのと同時に、満足してあざ笑う獣の存在を、自身の中に感じる。


 ――その時、足元が大きくぶれた。