はい。だって私あまり準備していなかったから、地主様にご用意できるのは、スープが少しと昨日もらったパンだけだったのですもの。良かったです。ありがとうございます」
きっと、あの量では足りなかったと思っていたし、今の光景を目の当たりにして確信していた。
地主様は「充分だ」と言い張っておられたが、気を使わせての事に違いない。
やはり、男の人には充分な食事が要る。
テーブルに所狭しと並べられたお皿に盛られた、温かな食事に感謝した。
幸せな気持ちでにこにこしていたのだが、皆が気まずそうに黙り込んでしまった。
場が奇妙な静けさに包まれる。
何か、変な事を言ってしまったのだろうか。
そう気をもんでいると、改まって名を呼ばれた。
「カルヴィナ」
「はい」
隣の地主様を見上げる。
「おまえが用意してくれていた食事は、明日の朝にもらう」
「はい、わかりました。地主様」
声ばかりか、顔つきまでもが改まっておられた。
何だろう、この違和感は?
首を傾げずにはいられないが、その理由がわからなかった。
そのまま食事はすすみ、最後にお茶とお菓子が出される。
「エイメ、蜂蜜もかけておあがり。地主様もよろしかったらどうぞ」
「ありがとうございます。あの、少しだけで大丈夫です。食べきれないといけないので」
「そうか。いいよ、いいよ。好きな分だけで」
その頃にはもう、漂う違和感のその訳に気が付いていた。
村長さんは私にはすごく優しく話しかけるのだが、地主様にはそうでないのだ。
もちろん、あからさまに冷たい感じはしない。
しないのだが、必要最低限の礼儀を表すが、それ以上は無いのだ。
なんだか村長さんは怒っているみたいだった。
それをおくびにも出そうとはしない分、本当に地主様に対して怒っているのが伝わる。
もちろん、決め付ける訳にも、ましてやそう尋ねる訳にもいかないから、黙って知らないフリをするしかない。
何より地主様自身が、すごく穏やかだ。
――と、思いたい。
