意気揚々と白地の衣装を持ち出してきた石屋の娘は、さも当然だろうと言わんばかりだった。
「私たちの誰もが準備に追われていたわ。とてもじゃないけれど、森のカミサマが納得するような古語を操れる自信なんてない。もしエイメが来てくれていなかったら、私たちのうちの誰かは腕輪造りを諦めていたわ」
「だからって私でなくてもいいと思う」
選ばれたとういうのもどうかという状況は、はめられたの間違いなのではないか。
そう言いたげな表情だった。
「何を言っているのよ! わたし、一番最初に言ったわ。そうでなければ誰が古語を操れるって言うの? お祭りを手伝ってくれるのでしょう、大魔女の娘よって」
「……。」
「エイメは納得してくれているのだと思ったわ。協力してくれるって、安心したの」
「じゃあ、何で言ってくれなかったの?」
「忘れていたの。言った気になってて」
さらりと石屋の娘は言ってのけた。
明らかに、計画的な犯行だと思わせるに充分な方便だった。
カルヴィナの視線が泳ぐ。
おぼれる者が、何か助けになるものを求めるかのように。
それでもカルヴィナは、こちらを見ようとしなかった。
一昨日から心なしかカルヴィナから避けられている。
当然か。
人の心に敏(さと)い娘だ。
俺の抱いた感情に晒されて、本能から怯えているに違いない。
幼子(おさなご)にしてやるかのような、仕草を務めたつもりだったのだが。
まさかのお返しに、俺の中で何かが弾けた。
箍(たが)が外れたと表現するのが相応しいのかもしれないが、そう言ってしまうにはあまりにささやかな崩壊だった。
――本当にこの胸の何かが外れたら、あの程度などでは済まない。
本当の手枷足枷が必要になる事だろう。
そもそも最初から、俺に枷となる何かがあるのかと問われたら、何も答えられないが。
「確かにカルヴィナは請け負っていたな。祭りには大魔女の娘の助力が必要だと」
「地主様……。」
「この土地を預かる者として、祭りの成功も仕事の内だからな。カルヴィナ、大魔女の娘としての判断はどうだ?」
頼りなく揺れていた視線が定まった。
はっと、何かにつかれたように目を瞠る。
ためらいながらも、カルヴィナは意を決したように頷いた。
「はい、地主様。精一杯、お勤めさせていただきます」
「ありがとう、エイメ! ありがとうございます、地主様! じゃあ、エイメも地主様も、今夜はここで過ごしてね」
「何?」
「え?」
「あら。だって祭りの前から森の気に浸らなくっちゃ。それが習わしだもの! 巫女役はもちろんの事、他ならぬ地主様も! 祭りに参加するなら、この祭り直前の森の気に触れる事から、ですわ」
