大地主と大魔女の娘


 どうやら、女だけの秘密の腕輪作りも無事に終わったらしい。

 それも含めて、準備はどうにか間に合ったと、安堵の表情を浮かべた娘二人から告げられた。


「本当に本当にエイメが来てくれなければ、どうなっていた事か! ありがとうっ」

「がんばったねぇ、ミルア。みんなも。良かったね」

 健闘を称え合う二人を、単純に微笑ましいと思う。

 やり遂げたという達成感に、明日への期待が高まってか、瞳が輝いている。

「じゃあ、エイメ。お祭りの衣装合わせをしましょうか!」

「……衣装合わせ?」


 明るい声に対して、カルヴィナの声は低めだった。

 明らかに乗り気からは程遠いと窺わせるに充分な口調。

 それでも生き生きとした表情で、楽しげにカルヴィナの手を取っている石屋の娘に、気にした様子も無いが。


 おそらく姉に付き合わされた事を思い出しての事ではなかろうか、というのはただの俺の推測だ。

 カルヴィナに、己を飾り立てようという意識を持て、と要求しても無駄だと知っている。


 カルヴィナは極端に目立つ事を厭(いと)うのだ。


 どうやら魔女には魔女の装い方があるという心構えらしい。

 森を行き来するために身軽で、華美過ぎず、実用的な物を。

 色合いは花のものではなく、森の木立に馴染むものを。


 それがカルヴィナの願いだった。

 姉がどんなに娘らしい物を勧めても、気持ちは変わらないらしく、浮かない顔をしていた。


 好きにさせてやればいい。

 そう思うに至っている。

 姉も同じらしく、だがリディアンナを通してそれとなく、似合う衣服を届けるのは止めていない。

 娘二人のやり取りを見守っていると、助けを求めるような視線とぶつかる。

 それもすぐ、逸らされてしまった。

 それを追う。

 どうやらカルヴィナは、祭りの巫女役に選ばれたらしい。


「これ! エイメ着てみてね。多分、大丈夫だと思うんだけど、エイメは華奢だから念のため」

「え? だから、私が何で巫女役? ミルアがやるものだと、てっきり」

「わたしを見ていたらわかると思うけど、そんな余裕はありませんでした。古語を完璧に発音するのも、祈りの言葉をそらんじるのも無理です。時間が無さ過ぎたわ」

「だからって大事な役でしょう?」