大地主と大魔女の娘

 
「ダメ―――ッ!!」

 突然、大声を出してカールが間に入ってきた。

 キャレイごと私に抱きついて、地主様を強く睨みすえている。

 それには相当驚いた。

 カールは地主様が怖くないのだろうか。

 流石、小さくても男の子だと妙に感心してしまう。


「ど、どうしたの?」

「ダメったらダメっ。魔女っこのおまじないは、ぼく達だけでいいの! おおじぬしさまはオトナだから、いらないでしょ!」


 そう言って地主様から庇うように、ぎゅうぎゅうと抱きついてくる。


「いいぞ、カール。いっちょまえにヤキモチか。オトコだなぁ」


 ひゅうと口を鳴らすとジェスがからかった。

 そんなジェスにも構わずに、地主様はカールの頭に手を伸ばし、ごしゃごしゃと撫で回した。

 猟犬たちにするみたいに。

 ふいにそんな事をされて、カールは驚いたようだった。

「カールというのか。おまえは勇ましいな。良い子だ」

 地主様は心なしか口角を上げ、瞳にはやさしい光が浮かんでいるように見えた。

「……魔女っこは、あげないからね!」

「いいぞ、カール~」

「ジェスにもだよ!」


 揶揄するように声援を送るジェスにも、カールははっきりと言い放つ。

 照れくさそうに地主様の大きな手をふり払って、私にしがみ付く。


「もてるわねー。エイメってっ……! な・な・な・何でしょうかっ!?」


 同じく面白がって笑っているミルアの頭に、地主様の右手が乗せられる。


 ――と、驚いている間に、私の頭も同じようにされていた。

 驚いた何てものではない。

 言葉が出てこない。

 ただ口をぱくぱくさせて、忙しなく空気を飲み込むばかりだ。


「!?」


 地主様はどうされたのだろう?


 視線で問い掛けると、射殺されるかと思うほど睨まれた。


「それに引き換え、おまえたち! 祭り前で浮かれるのは解らないでもないが、酒に呑まれて男の前で無防備に眠りこけるとは何事だ!」


 どかーんと雷を落とされた。

 わっしと掴まれた頭を揺すぶられる。


「えっと、男って言っても、ジェ、ジェスだし?」


 ミルアが何故そこまで怒るのかと言いたげに、口を挟んだ。

 ああ、ミルア。無謀な真似を。


 心の中でたしなめてみても、もちろん遅かった。

 ミルアも頭を掴む手に力を込められたのだろう。

 引きつった表情から、自らの発言のうかつさを呪っているようだった。


「おまえは、幼馴染だからといって男を見くびりすぎだ。いつか足元をすくわれるぞ。それからでは遅いんだ。いいか! おまえたち、これから酒は禁止だ」

「うっわ。何、オレ? 相当、オレが悪者ですかい、地主様?」


 そんなジェスの声を無視して、地主様は「いいか。わかったな? 返事は?」と促がしてくる。


 頷こうにも強く頭をつかまれているので、なかなか上手く頷けない。

 ミルアはよせばいいのに、また未練がましく口を挟む。


「お、お祭りの日もですか、地主様」

「当たり前だ! たかだか果実酒の数杯で、正体をなくしかねない娘が許されると思うな」


 そんなぁとミルアが情けない声を出しても、駄目なものは駄目だと地主様はまるで取り合おうとはしなかった。


(どうしてお酒に酔って眠ると駄目なのかな? 浮かれる? 男の人、足元をすくわれるって何?)


 地主様の言った言葉を理解しようと考え込む。


「……わかったな、カルヴィナ?」

「はい。解りました。お酒は禁止ですね。でも、お酒に呑まれて無防備? 眠るといけないの?」


 考え中に話し掛けられたせいで、まとまりのない返事をしてしまった。

 途端、頭を掴んでいた地主様の握力が増す。

 痛い。


 結局その後、お小言は延々と続いた。