「くたびれたんだろうな。眠っちまってさ。もう少し、休ませてやってくれよ」

「眠り込んだのは、くたびれたせいだけか?」

 俺の責めるような口調に、諦めたように青年は認めた。


「まあ、酒が効いたんだろうなっていうのもある」

「何故、止めない」

「止めるも何も。来てみたら味見とやらは始まっていたのさ。うん、良い出来だったよ。祭りが楽しみだな」

「……。」

「叱るんだったら、言い出してせがんだミルアを叱れ。あいつは全く。エイメが戻ってきて嬉しいのは解るが、はしゃいで引っ張りまわし過ぎだ」

 そこに責めるような響きは無かった。

 ただ、出来るものならな、という含みは感じた。

「いいや。両方を叱る」

「厳しいな、地主サマは」

「女子供が酒に呑まれて、無防備に男の前で眠り込んでいるのだからな。説教だ」

「そこら辺は同感だな。でも、まあ、程ほどにしてやってくれ。それより、アンタも手伝ってくれ」

「何故だ」

 即座に切り捨てるように答えた。

 何で俺がというよりも、何故オマエと差し向かいで作業せねばならないのかという不満だ。


「あいつらはもう少し寝かせてやらないとな。酒が抜け切らないうちに説教は無駄骨だぜ。だから放置だ。ま、日が陰って来たら、自然と目を覚ますだろ。それまで暇だろう、地主サマ?」


「暇ではない」

「祭りに参加するんだろう? だったら準備にも参加してくれないとなー」


 それが自然と言わんばかりの滑らかさで、匙を差し出された。

 何となく受け取ってしまう。

 また顎でしゃくられ、椅子に腰掛けた。

 テーブルの籠に山と盛られたクルミがあった。

 それらは全部、からが割られてある。


 あとはこうやってかき出すだけのようだ。


「ちまちまと地味で単調な作業だよな。でも以外に手間がかかって、人手は一人でも多い方が助かる」


 匙はすくい口の方ではなく、鋭くなっている持ち柄の方を使ってかき出す。


「確かに」

「文句を言わずに噂話やら、色恋話やらを口にしながら、こういう作業をする女どもをオレは尊敬する」

「……。」

 確かにそうだ。

 こうやって男同士が向かい合って作業をしてみても、つらつらと文句を言うか、押し黙るしかなかろう。


 黙った後に流れる殺伐とした雰囲気を避けたくなり、一方だけがしゃべり続けるか。


「味見は五個分までは許す」


 青年の不自然な手元のからの山に視線をやれば、そのような許可が出た。