「おまえは魔女の知識を生かして俺に仕えろ。そのためにここへ連れて来た」
「それではなおの事、私は森に在らねばなりません」
「一人でいたからこその、あの様だろう。ただ泣き暮らしていた奴が、森に戻って何とする? 再び泣き暮らすつもりか?」
「もうそんな事を繰り返さないように致します」
頑として言い張った。
私は大魔女の娘。
森から離れては生きていけない。
彼は魔女の理(ことわり)を知らないに違いない。
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税金を納めないという大魔女の元に、何度か通った事がある。
しかし大魔女はどういう訳か、こちらの動向を事前に察していた。
いつ訪れても大魔女は一人きり。
噂で聞くだけのカラス娘はどこか使いにやっているようだった。
それか隠れるように言い渡しているのか。
気にはなったが、あえて追及した事は無かった。
いつも他愛のない話をした。
最後に、税を納めていないのはこの家だけだと言い置く。
すると魔女は笑いながら、小瓶に詰めた軟膏やら薬草やらを手土産にと持たせてくれた。
時折り――木々の間、視界の端を闇色が掠めたような気がして、振り返りながら森を後にする。
そんな事を数年、繰り返した。
最後にしたやり取りは一ヶ月と少し前。
「あの子にはすべて伝えてきた。思い残す事など何も無いよ。あんたが森の恩恵に預かりたいというのなら、それは森に尋ねるがいいさ」
「ばあさん」
「わたしゃもう行くよ。あんたが森をつぶそうが、どうしようが好きにしたらいい。ただ森は応えるだけだ」
そういい残して大魔女は去って行った―――逝ったのだ。
