戻る戻らない、帰せ帰さない。

 そんな押し問答が繰り返される。

 地主様と村の彼とで、だ。

 相変らず二人とも、私の意思を尊重する気は無いらしい。

 二人とも一歩も引かない。

「あのぅ?」

 どうにもならないので、声を掛けてみた。

『戻るぞ、カルヴィナ』

「ここに戻りたいだろう、エイメ」

 駄目だ。話が付きそうに無い。

「あんた! わざとらしく古語を使うのは卑怯だぞ! オレにも分かるように言えよ」

『そんな必要があるか。俺はカルヴィナに話しかけている』


 頭上でわあわあ言い合う二人に、ため息を付くしかなかった。


 しばらくすれば、どちらかが折れるだろう。

 いがみ合ううちにくたびれて、少しは譲歩しようという気持ちが、どちらかに現れるのを待つ事にしてみたのだが。

 そんな事は無駄なのだと思い始めている。

 くたびれてきたのは私だけのようだ。

 どちらも睨みあったまま、けっして動こうとしない。

 自分からは――。

『カルヴィナ』

「エイメ」

 そこでやっと気が付く。

 二人とも、私の意志でどちらか選べと言っているのだ。

 だったら答えは決まり切っている。

 椅子に腰掛けたままだったが、姿勢を正して二人を見上げた。

 琥珀色と濃い紺色とを代わる代わる見比べる。

「森に居たいです、地主様」

「エイメ!」

「でもあなたの手を取る訳じゃないわ」


 ぴしゃりと言い放つと、きっぱりと宣言した。


「私が森の、魔女の娘だからよ」



 遠くの方、家の外から犬たちの鳴き声が聞こえた。