大地主と大魔女の娘


 「足が痛むのか?」


 頭上から降ってくるように響く声に見上げた。


 が、それも短い間だった。

 地主様が膝を折ったからだ。


 そうして目線を合わされた。


「見せてみろ」


 そう言いながら、右脚の方の靴紐を弛められた。


 あっさりと脱がされてしまいそうになる。


 だが、それを何とか押し留めた。


 今日のこの服はいくらか少し、スカートの裾が短いのだ。


 いつものような踝(くるぶし)近くまであるわけではなく、せいぜい膝頭を覆うのが精一杯だ。


 この編み上げの靴を脱いでしまったら、醜く引き連れた傷痕を晒してしまう事になる。

 そんなのは嫌。

 それに痛むのは、どちらかといえば体重を掛けてしまう反対の足の方だった。


「大丈夫です。もう、座れたから楽になってきました。それに痛いのは左の方です」


 そう訴える。


 だが地主様は引かない。


「左? 右は痛まないのか」

 尋ねながら左の靴紐も弛めてしまう。

「もう、大丈夫です。ずっとこっちに体重を掛けて立っていて、くたびれただけです」


「靴を脱いで楽にしておけ」


「あの、や……。自分でします」


 靴をどうあってもゆるめようとする指先を止めようと、そちらにばかり気を取られていた。

 少し離れた所に立っている青年が決まり悪そうに、声を掛けてきた。


「エイメ。足が痛むのならば冷やしてやろうか? それとも薬がこの家のどこかにあるだろう。言ってくれ、取ってくるから」

「ありがとう。もう大丈夫だよ。ずっと同じ格好をしていると、痛くなる事があるだけ。あの、良かったら二人とも座りませんか? お茶を仕度致します」


 椅子は二脚しかないので、立ちあがって地主様に譲ろうとした。

「カルヴィナ、気を使わずともいい」

「エイメ、座っていてくれ」

 二人の声が同時に被った。

 再び、地主様と青年はお互いを静かに睨み合う。

 いつだったか目撃した狼同士の縄張り争いと同じように、場の空気が張り詰めた。

 双方、一歩も引かず己の領域を主張して譲らない。

 奇妙な沈黙が流れる。

「なあ、エイメ。ひとつ、訊いてもいいか」

「なあに?」

「この男はオマエの何なのだ?」

「え?」

 青年は腕を組み、顎をしゃくって地主様の方を指した。


 その視線に倣うと地主様と目が合った。


 深い紺色の瞳を覗く。


「何? 何って……。お仕えしている、大地主様です」