あまりの嬉しさに、地主様と一緒だという事を一瞬忘れていた。

「嬉しそうだな」

「……っ、はい」

 驚いた声を上げてしまった。

「何かが歓迎してくれているようだな」

「!?」

「もっとも我々ではなく、カルヴィナ。おまえだけのようだが」


 驚いて息を飲んでしまう。

 緊張に強張った身体を、地主様に抱えなおされる。

 地主様はそれ以上、何にも追及してこなかった。

 ただ軽やかに馬を進ませる。

「そういえば朝食がまだだったな。腹が減っただろう?」

「地主様は?」

「俺は軽く済ませた。おまえはどうかと訊いている」

 首を横に振る。

「大丈夫です、地主様」

「昨晩もろくに食事に手をつけていなかったと報告があったが、事実か」



「充分取りました、地主様。私にとって必用な分をきちんと」



 そう。充分いただいているのに、毎回こうやって責められるのはキツイ。


 最近は地主様とご一緒の食事を免れて、助かっている。

 あの立派なお部屋も気後れしてしまうし、給仕をしてもらうというのにもどうしても慣れる事が出来なかった。


 私がいつまでもその調子なので、リディアンナ様が良いようにと計らって下さったのだ。

 嫌味も鋭い視線も無い食事は本当にありがたい。


「……それなら良いが。もっと多く取るように。おまえは、もう少し『娘(エイメ)』らしくなるべきだ」


 地主様は娘の部分だけを古語で仰った。

 恐らく魔女の娘に、そこを強調してやろうと思ったのだろう。


 そんな含みが感じられた。

『娘(エイメ)らしく?』

『もっと太れ』

『太る』

『そうだ』

『どうやってですか、地主様?』

『だから食事をもっと積極的に取れ』

『魔女の娘にはあれで充分です』

『その体つきで何を言う』

『だって、こうやって森の生気を感じているだけで身体が満たされます。ですから今も、大丈夫だと申し上げています』

『おまえの体つきからは信用ならんな。おまえが精霊の娘だとでも言うのなら仕方が無いが』


 もう黙ろうと思った。

 いつもこうだ。

 彼と話していると、最終的には言葉を紡ぐ気が削がれて行く。


『別に責めたつもりは無い。だからそう機嫌を損ねるな。オマエは―――。』

 ―――もっと楽にしていろ。


 黙り込んだ私に、彼は相変らず古語でそう告げた。


『でしたらエルさんの馬に乗りたいです、地主様』